第2話 はなしたいのに
「貴様、王女と接触していたな!
王女はどこへ逃げた?」
正面に立つ男が鋭く問うてきた。
……俺は一体、何に巻き込まれているのだろうか?
……それとも夢でも見ているのか?
「お、おい!
毒犬だ! こいつ、毒犬ナッツを従えてるぞ!」
「地獄の番犬!」
「くそッ!」
トイプードルを見た男たちが驚いた声をあげ、少し後ろに下がった。
「あ、あの……」
俺が誤解を解こうとしたとき、正面の男がスーツの内から銃を抜き出した。
「動くなッ!」
銃口を俺に突きつけてくる。
その銃が本物かどうか、見分ける知識は俺に無い。
だけど、その男の目つきは、明らかに本気だった。
しかも、他の四人も、それぞれ武器を取り出した。
ショットガンに似た銃を俺に向ける男。
どこに隠していたのか、ガトリング銃に似た重火器を構える男。
後の二人は、剣とムチを取り出した。
と、正面の男が銃口を右に向け、近くのベンチに向かって引き金を引いた。
銃弾ではなく青白い光が銃口から放たれると、ベンチが一瞬で炭化した。
男はすぐさま、俺に銃口を戻した。
逆らえば、ベンチと同じ目に遭わすという意味なのであろう。
「ち、ちょっと……」
「黙れ!」
俺は弁明しようとしたが、男がそれを遮った。
「一切、動くな!
死にたくなければ、俺の命令だけをきけ。
しゃべるにしろ動くにしろ、命令以外のことをした場合、即射殺する!」
男の言葉に、俺は彫刻のように固まった。
毒犬と呼ばれたトイプードルが恐ろしいのか、男の目は強張り、顔中に汗を浮かべている。
俺以上に余裕がない。
ほんのささいなことで確実に引き金を引くだろう。
そうなったらたまらない。
俺は素直に男の命令をきくつもりであった。
「……はなせ」
男がそう言った。
……いや。
……いやいやいや、何を「はなせ」なのだ?
王女の行方を「話せ」なのか?
毒犬ナッツを「放せ」なのか?
王女は?
そもそも王女は、何を「はなさないで」と言ったのか?
俺は、必死に記憶を探った。
『はなさないで……』
あのとんでも王女も、何を『はなさないで』なのか言ってない。
男は俺を睨んだまま、引き金に指を掛けている。
質問すらできない。
「放せ」なら、口を開いた瞬間、引き金を引くであろう。
「話せ」なら、リードを放した瞬間、引き金を引くであろう。
ど、どうすればいいのか……
「五秒だけ待ってやる」
男の言葉は、死刑宣告のように聞こえた。
「5……、4……」
……残り3秒。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます