永遠の愛
@ns_ky_20151225
永遠の愛
「はなさないでよー」
あたしはおどけた。裕二は笑ってる。けどちょっと真剣でもある。
「だいじょうぶ、あとちょっと」
足場は悪い。石はきのうの雨で濡れてた。右手同士をつなぎ、飛び石をたどって小川を渡る。できたら二人は永遠の愛で結ばれるというのが学校の言い伝え。
小川の幅は三メートルもないし、夏冬は枯れる程度の流れしかない。石も表面は平らだから一人ならなんてことない。
でも二人だと微妙にバランスが崩れる。それが面白い。言い伝えなんか信じちゃいないが……、いや、ちょっとは信じてるのかな。あたしも裕司も心のどこかにマジ成分がたまってきた。
「ちょっとまって、いったん止まろう」
「なに? 怖い?」
佑二がからかう。でも止まってくれる。もちろん手ははなさない。それが小川渡りのルールだから。
止まって安定したら一歩踏み出す。となりの石に乗ると伸びた腕がたるんで落ち着いた。
「行ける?」
「行ける。あとちょっと」
笑顔。その髪に松葉がくっついてたので左手で取ろうとした。
「え、待って待って、やばい!」
優治の腰がぐらついた。あたしが左手を伸ばすときに体をひねったのが良くなかったらしい。ひざを曲げて態勢を整えようとしつつ、こっちには力を伝えないようにしてくれた。体幹がしっかりできてるのですぐ安定を取り戻す。さすがサッカー部だ。
「急に動くなよ」
「だって葉っば」
差し出すとまた笑った。
「じゃ、あとちょっと」
また一歩。手のひらに汗かいてきた。こんなの子供の遊びなのに、なんでまじめにやってんだろ。それは悠司が好きだから。一緒にいると落ち着くし、生きてるって感じがする。朝起きたときからもうこの人のことを考えてるくらいだ。
「よっしゃ!」
勇次の左足が向こう岸を踏み、右足も着いた。そのままあたしを引っぱってくれる。肩の筋肉が動く。あの腕でぎゅっとしてくれた幸せを思い出す。
あたしも渡り切った。まだ手はつないだまま。おまじない成功! 『永遠の愛』達成!
すばらしい。ずっとはなさないでね。
そして、もっとすばらしいのは、『永遠』も『愛』も、そこに『唯一』という概念は含まれてないことだ。
あたしはいくつもいくつも『永遠の愛』を持ってる幸せな子。もうはなさない!
了
永遠の愛 @ns_ky_20151225 @ns_ky_20151225
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます