第14話 ガガノアというドワーフ族

 二人は少し離れた所で抱き合いながら、ブルブルと震えていた。


 巨大ワームテールから吐き出された人物は丸裸のドワーフ(中年)だった。しかも服を着ていなかった為、ギルバートはすぐにシンシャの目を手のひらで覆い隠し、ドワーフに向かって大声で話しかける。


「おい、そこのドワーフよ! 生きているのであれば、早く服を着てくれ! こっちにはまだ小さな子供がいるんだ!」

「えー、先生。私、中身は子供じゃないんだけど?」


 シンシャが目隠しを外そうとしていたので「お前は黙っていなさいっ! 目の前に変質者が現れたのに、なんでそんな冷静でいられるんだ!?」とギルバートはパニックになりながらも、シンシャを叱った。


 ちなみにこれは余談だが、ドワーフ族の体格は人間よりも小さく、器用で物作りが得意な種族である。魔物から採れる素材を集める為に身体を鍛えられているせいか、街中にある勇者の像彫みたいに格好良く見えた。


「お前は一体、何者だ!? どうして、ワームテールの口から吐き出されたのだ!?」


 ギルバートの呼びかけが聞こえたのか、目の前のドワーフはゆっくりと立ち上がった。


 身体は小さいが全身の筋肉がガッチリと引き締まり、身体から熱気が立ち上っている。拳も通常の人間より大きかった為、あれで殴られたりでもしたら――と想像するだけでギルバートは身震いしてしまった。


(私は魔法は得意だが、身体を動かすのは苦手だ! しかもあのドワーフ、只者じゃない! ただ立っているだけなのに、あのオーラは普通じゃないぞ!)


 何か攻撃してきた時の為に魔力を練っていると、目の前のドワーフは裸のまま両手と片足を上げ、意味の分からないポーズをとり始めた。


「よくぞ聞いてくれた! 我の名は竜騎士ガガノア! この〝ファントムメア〟に住まうドワーフ族の戦士である!」


 自らを竜騎士と呼んだガガノアの後ろで、巨大なワームテールが服とかつらを吐き出していた。ベシャッ! という水分を含んだ落下音を聞き、ゆっくりとガガノアが振り返る。


「なっ!? も、もしや……我は今、全裸の状態で会話をしていたのだろうか!?」


 ようやく自分の格好に気が付いたガガノアはショックを受けていた。ギルバートは距離を取ったまま、声を張り上げる。


「だから、さっきからそう言っているだろう! 早く服を着ろ! こっちにはまだ小さい子供がいるんだぞ! 〝年季の入ったブツ〟を見て、この子が泣いてしまったらどうしてくれるんだ!?」


 ギルバートの声を聞いたガガノアは「わ、わかった! すぐに身嗜みを整えよう!」と返事をし、何故かワームテールが吐き出したかつらに手を伸ばした。


 どうして、先にかつらに手を伸ばしたのだろう――。


 ギルバートは疑問に思いつつ様子を見守っていると、ガガノアは濡れたかつらの内側に手を突っ込み、短い毛を二つと縮れた毛を手に取った。


「ええっと、この二つは眉毛だな。こっちの毛は……」


 短い毛を眉毛に装着し、モジャモジャの毛を股間に装着してみせた瞬間、ギルバートは指をさして激怒した。


「ちっがーーーーうっ!! 私は服を着ろと言ったんだ!! そんなモジャモジャの毛なんてどうでも良いだろうが!! 先に隠すべきものを隠せ!!」

「ぬぅっ!? さてはお主、流行トレンドを分かっておらぬな! 我が作る物こそ最先端の流行トレンド! この流行トレンドは何年かした後、人間達の間で流行るものよ! 全く、我の感性が分からぬ者がいるとは……おや? どうしたのかな、可愛いお嬢さん」


 ガガノアは口を開けたまま青褪めているシンシャと目が合った。


 シンシャは目を大きく見開いた後、「お、おと……お父さんよりも大きなツチノコが……小さいおじさんの股間に住んでる……」と呟いているのが聞こえてきた。


「汚物は消毒しなきゃ……汚物は消毒しなきゃ……汚物は消毒しなきゃ……汚物は消毒しなきゃ……」

「シ、シンシャ。少し落ち着こう、な?」


 ギルバートがなんとか宥めようとしたが遅かった。


 シンシャは手のひらの上で火の玉を作り、「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……」と呟き始めたのである。


「出でよ、炎龍!! あの汚いツチノコを焼き払うのよ!!」


 シンシャの手から大きな炎龍が飛び出てきた。

炎龍は大きな口を開け、ガガノアに襲いかかる。「ぬぅ!?」という短い唸り声がした後、ガガノアはあっという間に炎に飲み込まれてしまった。

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