第15話 意外な共通点

「ぬおぉぉぉぉっ!?」


 ガガノアはなす術もなく炎龍に飲み込まれてしまった。


 ギルバートが次に目を開けた時、ガガノアとワームテールの姿はなかった。火山の麓まで一直線に焼け焦げた跡が大地に刻まれており、近くにいた魔物達が悲鳴をあげて逃げ惑っている。


 しかし、不思議な事にかつらだけは焼け焦げておらず、太陽に照らされて艶々と輝いていたのだった。


「なんなのだ、このかつらは……」


 ギルバートは目の前の光景に唖然としながらも、かつらが落ちている所まで歩み寄る。


「シンシャの火力は大地を焦がす勢いだった。なのに、このかつらは焦げた様子もない。一体、どんな素材を使って――」


 ギルバートがかつらに向かって手を伸ばすと、地中からいきなり腕が生えてきた。この腕はガガノア本人のもの。ガガノアはギルバートの腕を掴んで離さなかった。


「ギャアァァァァ!?」


 驚いたギルバートは腰を抜かしてしまった。長い尻尾をブワッ! と逆立て、派手に尻餅を着く。しかし、ガガノア本人は悪びれる様子もなく、全裸のままワームテールの背中に乗って地上に姿を現した。


「フッフッフッ、見たであろう!? これこそが我の最高傑作! 〝ケナガヒトカゲ〟の毛で作られた至高のかつらよ!」


 ガガノアはワームテールの背中に乗りながら、ドヤ顔でポーズを決めた。


 魔力切れを起こしたシンシャは「全裸でナポレオンのポーズをとられても気持ち悪いだけだわ……」と謎の言葉を残して気絶してしまったのだった。


◇◇◇


 その後、腰を抜かしてしまったギルバートは気絶したシンシャを抱え、ガガノアが従えているワームテールの背に乗り、森林地帯の奥にある洞窟に入った。


 意外にも洞窟内は魔物がおらず、ガガノアが作ったであろう家具が揃えられていた為、生活感があるのが印象的だった。


「見かけない顔だと思ったら、やはり新入りだったか」


 服を着用したガガノアからスープが入った木製のお椀とスプーンを渡された。どうやら、かつらは数種類あるらしく、今は金髪の縦ロールのかつらを被っている。


 ギルバートは話が長くなると思い、敢えてかつらの事には触れず、「ありがとう」と素直にお礼を述べたのだった。


「ここら辺は鶏系の魔物がよく飛んでるからな。肉が少なくて食べるのに不向きな魔物もいるが、このスープは美味くできた方なんだ。さぁ、熱いうちに食べてくれ」


 このスープは鶏系の魔物の骨から抽出したものらしく、野菜や香草と一緒に煮込まれているらしい。互いに軽く自己紹介して分かったのだが、ガガノアは一人で生活を送っていたようだった。


「今はこんな姿だが元は人間の姿をしていて、隣で寝ているシンシャは私が異世界から召喚した人間なんだ。この魔導書に挟まっていた魔法陣のせいで〝ファントムメア〟に飛ばされてしまってな。強力な結界が張ってあって外に出られず困っていたのだ」


 ガガノアは「成程な」と納得しながら、熱々のスープを一気に飲み干し、空気が震えるような低くて大きなゲップをした。


「残念だが、ここから出るのは至難の業だぞ」


 ガガノアが遠い目をした。どうやら、素材を求めてここに来たわけではないらしい。


「お主が言った通り、ここの結界は強者を内側から出さないような構造になっている。魔物を殺せない弱者なら話は違ったのかもしれないが、結界を破る方法も分からず、我はもう十年以上も〝ファントムメア〟を彷徨っておる」

「十年以上も? 素材を探してここまで来たわけじゃないのか?」


 ギルバートが聞くとガガノアは軽く溜息を吐き、「同胞に嫉妬されてしまってな」と教えてくれたのだった。


流行トレンドを作り出す度に嫉妬されてしまってな。他の同胞達は椅子や机、扉などを作って稼いでいるが、誰でも作れるような物を作って何が楽しいんだか。だから、我が絶対に流行ると予想した物を淡々と作っていたのだが、罠に嵌められてしまってな……」


 ガガノアは小さく肩を落とした。


 それを聞いたギルバートはドワーフ達はガガノアが奇妙な物ばかり作り出すので、評判が落ちると考えたのではないかと思ったのだった。


 しかし、ドワーフはこだわりが強いと聞く。しかも自分が作り出した物が一番でないと気が済まない性格だ。ガガノアの存在は目の上のたんこぶに違いなかったはずだ。


「……似たような境遇だな」


 ギルバートは誰にも聞こえない声でボソッと呟いた。この姿になって教会で追放された時の事を思い出してしまい、チクンと胸が痛んだギルバートはおもむろにスープを口に運ぶ。


「ぶっ!? 酸っぱ!!」


 ガガノアが作ったスープはやたらと酸味が強かった。どうやら流行トレンドを作る才能はあっても、料理を作る才能はなかったらしい。


 それを見たガガノアは「あぁ、やはりそうなるか」と無表情でスープをおかわりしていた。

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