【掌編】お祭り【1,000字以内】

石矢天

お祭り


 お祭りをやってたんだ。

 屋台がたくさん並んでて、提灯の灯りは赤や黄色できれいだった。

 やきそばの匂いがすごく美味しそうで、ぼくは屋台に並んだんだ。


 前に並んでいたのは四人か、五人くらいだったかな。

 一人、二人と前の人がいなくなって、やっとぼくの番が回ってきて、焼きそばをもらった。


 ふわりと香るソースと青のりの匂いがたまらなくて、割りばしをパチンを割って、よし食べるぞってときに、誰かに手を引っ張られた。


 突然だったから焼きそばも落としちゃって。

 美味しそうだったのに、すごくもったいない。

 

 ぼくの手を引いたのは知らない子だった。

 ぼくと同じくらいの歳の知らない女の子だった。

 でもどこかで見たことがあるような気がした。


「なんだよ、おまえだれだよ」って聞いたら、女の子は一言「たべないで」って言った。


 周りにはりんご飴だとか、たこ焼きだとか、かき氷だとかの屋台が並んでいるのに。そういえば食べ物の屋台ばっかりだったな。輪投げとか金魚すくいとか射的とか、そういうゲームみたいな屋台はなかった気がする。


 その女の子は、黙ってグイグイとぼくを引っ張っていく。


 途中でぼくたちのことを心配してくれたオジサンが、「おいおい坊やたち、子どもだけでどこに行くんだい?」って聞いてくれた。

 ぼくは「わかんない」って答えようと思ったんだけど、女の子がぼくの手を強く引っ張って「はなさないで」っ言うんだ。


 親切なオジサンだったのに悪いことしちゃったな。



 お祭りの屋台がだんだん遠くなっていって、提灯の灯りも遠くなって、周りはだんだん暗くなっていって。


 どこまで行くんだろう、どこに連れていかれるんだろうって、ぼくはちょっと怖くなってきた。


 明るいお祭りの屋台まで戻って、やきそばを食べて、たこ焼きを食べて、りんご飴も食べたいって思った。


 だから「ぼくはもどる」って言ったんだけど、女の子はまた「はなさないで」って言ったんだ。


 その顔がすごく怖くて。

 なんだか、怒ったときのお母さんみたいだった。

 

 そんなのもう黙ってついていくしかないじゃん。


 そのまま歩いていたら、目が覚めたんだ。

 変な夢だったなあ。



 あ、あの子だよ。

 ほら壁に飾ってある白黒の写真の、右から三番目の女の子。


 見覚えあるはずだよね。

 いっつも見てたから夢に出てきたのかな。

 


 え? ぼく三日も寝てたの? 高熱? へえ。

 言われてみればなんだかすごくお腹が空いてる気がする。



 ねえ。ぼく、やきそばが食べたいな。




      【了】

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【掌編】お祭り【1,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya

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