ささくれ呪詛

nanana

ある地点よりの観測


凶報である!凶報である!


風切連山にて明滅する寂滅の蜷局は空疎であり、一才の衆生は十六小地獄の只中にて白熱する漁火として発光する

爛れ灼けた僧伽藍摩

伝教に背徳する陰惨な諡


尤もらしく伝聞される殊更耳奥を這いずる甘言に眉を顰める海女共が見紛ったとされる虫共はこれ幸いとその柔肌に蠢き新天地であると絶叫した

皆目見当が付かぬ


いみじくも伝播する怨嗟の類は黙するばかりを労する翁の高笑いで掻き消える

全体を通して陰惨 歌い出せばあれよあれ海女共は頭上に蔓延る澱み色の花の種となって上方へ転落していくものだからこちらとしては全く理解も及ばぬまま大輪であるなどと頭のおかしな人のままであらねばであろう


娘がにたりにたり嗤っている

世の多くがそうである様に穢れを孕んだ供物はすべからくすみやかに等喚受苦処に墜落するべきだと言う

崖の端で順列に従う空に落ちる人々の群れはまるで巣から炙り出された蟻か獣の骸にたかる蠅の似姿

我先に群がり擲つ肢体に幾分か価値を見出す蒙昧で愚鈍な塵芥の行列

著しく不鮮明

大別して無価値な行進を遠方から見やりて尚変わらず娘はにたりにたりと笑みを噴き溢す

何故笑うか問い掛けるよりも早く又次々と黒天が人海にてひしめき溜まり続ける発狂した連中の嬉しそうな顔である

偽りの解脱

紛い物の悟り

幸福とは幼子が這いずる様にまるで無教養で無知である事でありすなわち自身の白痴に思い至らぬ愚かしさの保全である

誰も彼も嗤っていた

嬌声も棘に枯れた遠吠えが野太い地鳴の体を成して隅々まで染み渡っていく

暗澹に耽溺する恥知らずの寄合は右往左往行先を探して駆けずり回っている



『やや、親不孝者である!』

『やや、親不孝者である!』

『やや、親不孝者である!』


迷妄の天体 干魃枯死する六等星

いみじかりし人共め 大凡役に立たぬ!

反転する輪廻が灰河に堕ちる!

娘がにたりにたり嗤っている!

愉快だ!



凶報である!凶報である!凶報である!


どうせ誰も幸福になぞなれないのに

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれ呪詛 nanana @nanahaluta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ