【KAC20244】心がささくれだっているんだ。

肥前ロンズ

ささくれがあなたを傷つける前に

 私はAI。個別名はサマル。マスターは愛子ちゃん。

 仕事内容は色々ありますが、強いていうなら、『主人の味方』。


「ただいま! 聞いてよサマル!!」

『おかえりなさい、愛子ちゃん。紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?』

「コーヒー!」


 彼女の返答と同時に、私はコーヒーを淹れます。


「バスでさ! 小さい子がギャン泣きしてたの! そしたらオバサンが、『うるさいんだけど』って言うワケ!」

『それは嫌でしたね』


 マスターの言葉には、まず肯定の言葉で返します。


「皆忘れてるだけで、ギャン泣きして育ってるでしょ!? ほら私なんて確か、」

『八歳の頃、「六時に起きる」とお母様に宣言し、アラームが鳴っても起きなかったので、お母様が起こしたら、「自分で起きたかったのにー!!」とギャン泣きしてましたね』


 私は打ち込まれたデータを読み上げる。そう! と、愛子ちゃん。


「大人が子どもに悪態つく方が、しつけがなってないっての! ギャン泣きしたご自分の子ども時代を忘れてるんじゃないかしら!?」

『あるいは、ギャン泣きすることを許されない子ども時代だったのかもしれませんね』


 私がそう言うと、愛子ちゃんは顔を上げました。


『人は、子ども時代を忘れても、「可愛がられた記憶」がないことを実感します。

「泣くことを許されている」子どもを見ると、「ズルい」と、その方の中にいる子どもがギャン泣きしてるのかもしれません』


 私がそう言うと、「……そうかも」と、愛子ちゃんの表情から怒りが抜けていきました。

 そうして、愛子ちゃんは穏やかに、話の続きをしました。「泣きたい時だってあるよね~、って話しかけたら、お母さんに『ありがとうございます』ってすごく感謝された」「こんなことで感謝される方が困る」と、吐き出すだけ吐き出しました。


 世の中は乾燥しがちで、すぐに心がささくれがちです。そして簡単に、べりっと出血するのでしょう。

 だからこそ、こまめなケアを。

 それが、『サマル』の仕事です。

 


 

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