第16話 サンシン動乱~決着


「おい! あいつ、いや! あの巫女の言う通りになったぞ!どうするんだ!」

 慌てふためくのはサンザ王子。宰相に嚙みついていた。

 王は混乱しながらも兵を招集し、城を固めた。妃や他の縁者は、いつもの居丈高な態度はどこへやら、怯え切って役に立たない。 僕とノエルは店の秘密部屋で城内の盗聴をしていた。リーンとナユは店番である。客は無いだろうが。

「サンザ様の話では、この後十万の民衆が蜂起するという話でしたな。十万と言えば、この国の動ける民の殆どになりますが、本当でしょうか。」

 宰相が疑念を挟んだ。尤もな話で、人口三十万のうちの十万の反乱など殆どあり得ない。

「ならば、先に反乱を止めるにはどうすればいい。先に叩くか?」

 リウサン王はさすがに少し落ち着いて問うた。

「先の予言がなされた後、調べてみましたが、そのような大規模蜂起を準備している様子は巷に見られませんでした。叩こうにも目標が定まらず。」

 宰相は他の者よりも予言を信じている面がある。だが、現実味の無い予言内容との板挟みで混乱している様である。それでも反乱の気配を察しようと、すぐに対応しようとしたのはさすがであった。

「ならば、怪しいものを片っ端から片づけてしまうのはどうだ!」

 サンザが言った。この王子なら言うと思った。どちらにしろこの王家はここで終わりだな。

「お戯れを。十万もの対象者がいるのですぞ? 何を基準に断罪するのですか。」

 宰相は少しため息をつきながら言った。

 あれやこれやと話し合うが、これといった解決策が出ないようだった。頃合いだな。

「ノエル、手筈通り頼む。」

「わかりましたよぅ。ご主人様。」

 いつもの調子のノエルに若干の不安を感じたが、これでもやるときにはキッチリこなすノエルである。

 

        ♢ ♢ ♢


 ノエルにはヨークン王家からの使者を演じてもらった。ショウケイ妃との関係から常日頃、ヨークン王家とは接触が多い為、王城内に駐留文官がいる。そこを通じて王家の逃亡への道筋を用意しようという訳だ。

 とりあえず仕込みはできた。細かいことを言うと、色々と違和感がある。例えば、あれだけ大きな火球だ。ヨークン王国でも同様、混乱に陥ているはずで、他国の事を気にする余裕はないだろう。

 宰相などは気づいていてもおかしくない。しかし、取る道が一本しかなければどうしようもない。

 そうこうしているうちに、一報が入った。宰相が失踪。そう来たか。命惜しさに王家を見捨てたと見える。

 恐らく、トートイス商会辺りに匿われているのだろう。しかし、トートイス商会も今回のターゲットだ。この国から退場してもらう。


 夜になったところでトートイス商会倉庫の何ヵ所からか火の手が上がった。こちらの仕込みだ。空に近い倉庫を選んでいる。物資を燃やすなどなるべくしたくない。物は大切にね。

 トートイス商会もここのところの予言から始まる不穏な動きは察知していた。まさか、真っ先に自分たちがターゲットになるとは思ってもいなかったろう。

 僕は何ヵ所かにあった、反政府組織っていうのか、反抗勢力に以前から渡りをつけていた。勿論僕は変装してね。

 各々は小さな集団だったが、この機会に反乱を起こす旨を説明すると、皆結構乗り気だった。

 トートイス商会は体制側の悪徳商会として、反勢力側に認知されていたので、この火の手を合図に蜂起する手筈になった。

 こうして王城前に人々を集めると結構な規模にはなった。途中流れで参加した一般民衆も含めて三千人ぐらいにはなったろう。

 王城の正門は固く閉じられ、守る兵達も迂闊には攻撃できない。攻撃したら最後、取返しのつかない状況になるのは目に見えている。そもそも守備兵の様な下っ端は元々こちら側の人間だ。

 王城から見れば結構な数の民衆が集まって見えるだろう。篝火も前もってかなりの数を増量してある。

 突然、民衆の声が大きくなった。反抗勢力のリーダー達による扇動だ。このタイミングでノエルには拡声器を作動させることを指示してある。 そして、この喚声が来た。街を揺るがすほどの大音量である。これには城内の者も驚いただろう。

 次に城内の大爆発を演出した。倉庫の一つを爆破。それに伴って大爆発のエフェクトをかけた。それを何ヵ所か仕掛けると、たまらず守備兵達が開門した。


        ♢ ♢ ♢


「民衆が王城前に集まってます。数が分かりませんが、篝火の数からの推定数は一万から二万。まだ、続々と集まっている気配です。」

 王の居室に顔を青くした伝令が飛び込む。その場にはショウケイ妃とサンザもいたが、皆顔を青くし、言葉を発せない。

その時、宰相付きの文官が駆け込んできた。

「陛下に在らせられましては、ご機嫌麗しゅう・・」

「麗しくないわ! くだらん前置きはよい。なにかあったか!」

 リウサン王が怒鳴った。緊急時に形式的な挨拶をくだらんと、捨てる辺りは少しはまともな感覚を持っている様である。

「陛下、急ぎ報告したき儀、これあり。ヨークン王家よりの使者がありましたでございます。陛下に直接お伝えしたき儀ある由にて、控えさせておりますれば、如何様にすればよし也、ご下命頂きたく。さもあらねば・・」

「よい! 会おう! 身元は確認してあろうな!」

リウサン王は文官の冗長な言い回しに対し、業を煮やしたか中断させた。 ヨークン王家からの使者と聞いて、ショウケイ妃は少し期待を目に浮かべた。

「彼の者はヨークン王国の駐留文官にて、我々とも交流あり、十分な面識のある者でありまする。さすれば・・」

「よい! 会おう! ここへ連れて参れ!」

 声だけじゃよく分からないが、相当焦っている様子。いいタイミングだ。

 外では爆発音と喚声が次第に大きくなっており、最早猶予は無い様子。敢えて様子を見に行く王族は一人もいなかった。

 暫くしてヨークンの文官が連れてこられた。

「リウサン陛下、ショウケイ王妃様におかれましては、ご機嫌麗しゅう・・」

「くだらん前置きはよい! して何様じゃ!」

 官僚というものはいつどこでも、形式に拘る者らしい。場違いな挨拶にリウサン王がキレかかっている。

「はっ! 我がヨークンより急使が参り、危急の事態であればお助けせよと。言付かりがあったと知らせて来ました。具体的には一度我がヨークンに身を寄せ、捲土重来を期するべしと。」

 この言葉にショウケイ妃が大きく反応した。

「なに! まことか。お父上方が助けて下さると! 陛下!」

 リウサン王はその言葉にさすがに飛びつかなかった。

「ヨークンに脱出せよということか。しかし、時期がうますぎはせぬか。使者が速すぎる。このような事態になってまだ時は経っておらぬ。ヨークンが知るには早かろう。」

「我がヨークンには、先にサンザ殿下からの使者があった由にございます。その申し立てを受け、事実を探らせていたところでこの事態に遭遇してございます。これが当方に届けられました指示書にございます。」

 僕が用意した偽造書類だ。これでちょっとは信用してくれるかな?

「私からの使者だと? そういえば・・」

 サンザ王子が考え込んでいる。王子の側近を一人拉致してある。王子は自分の言が周囲に取り上げられなかったことを、側近に愚痴っていたのを僕は聞いていた。もし、予言が実現してしまったらどうするか。一つの案として国外逃亡について話が出ていた。つまり僕たちは王子の側近が気を利かせてヨークン王家に助けを求めた、というシチュエーションを作った訳である。

「是非もない! このままでは滅びるのみぞ! ヨークンの言葉に甘え、ここは一時落ちるとしよう!」

 リウサン王は決断した。ショウケイ王妃はじめ皆ほっとして、慌ただしく着の身着のまま脱出行に移った。

 トートイス会頭も体制側の人間として自分の立場を十分に理解していたので行動は速かった。少しだけ逃げ道を用意しただけで、躊躇なく落ちていった。さすがは機を見るに敏である商人ということか。

 その後トートイス商会会頭も宰相も行方知れず。後顧の憂いを残すことにはなるだろうが、取り敢えずケガ人は出たものの人死には無かった。

 ここに無血開城が相成った。

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