第7話 襲撃
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「リーン起きて。」
あたしは、襲撃に備えて店の周囲に設置した探知機の反応を受け、リーンを起こした。真夜中の襲撃、もしくは侵入か。
これまでは旧時代のテクノロジーを使用することは極力控えてきた。現代に漏れることをことを恐れたためである
しかし、ジンの言った方針転換により、最悪、現代社会に晒されても問題ないと判断したときは遠慮なく使うことにした。探知機もその一つである。何しろ目に見えない程小さい。問題ないはず。
リーンは一瞬で飛び起き、上着を羽織った。慣れた者の動きで、感心するとともに、不憫な気持ちも湧いてきた。
「地下倉庫に行くわね。」
ジンとノエルは既に一階に待機している。地下倉庫は普段雑貨の在庫を置いておく部屋だが、リーンを預かることに決めてから避難場所に改造してある。どんな賊でもちょっとやそっとでは突破できないはず。
「ここに暫くいてね。すぐに終わると思うから。」
リーンを安心させるように微笑んで抱き締めた。
上に上がると、既に事態は動いていた。ノエルの姿は見えない。外に出て先制攻撃でもしているのだろう。ジンは2階にいるみたい。客観的にはいつもの静かな夜だ。
空気が動いた。賊が2階の窓を開けて侵入したようだ。気配をあまり感じさせない。かなりの手練れみたい。雑貨屋を襲うのに大げさじゃない? いや。気付かれないように侵入してリーンを攫うだけの予定だったのかな。事は荒立てない方が良いに決まっている。
2階は処理がすぐに終わったみたい。ジンもあたしも元々研究者気質だから、武闘派とは最も離れた立ち位置にいたのだけれど。ジンの創った体はかなり丈夫にできたし、加えてこんな時代なのでサバイバル技術にもかなり傾倒した。時間もたっぷりあったしね。それで人並以上の力仕事もできるようになった。
加えてモニカータのノエルは戦闘力が凄い。地球上では1対1で敵う人なんていないだろう。ブランは別だけど。
そうこうしているうちに、終わったようだ。縄で縛られ猿轡をされた男達が合計5人。1階の居間に静かに集められた。周囲の家の人たちは全く気付いてないだろう。4人は気絶させられ、一人、指揮者らしき者が猿轡の下で呻いている。
「さて、ご用件を伺おうか。騒がれても困るから、ナユ、薬で洗いざらい吐いてもらうことにしよう。」
あたしは頷いて、予め用意していた薬と注射器を取ってきてジンに渡した。
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「まずは、誰の命令でリーンを攫おうとしたのか、というところから吐いてもらおうか。」
十分に薬が回ったところで僕は訊いた。
賊が言うにはこうだった。
まず、自分たちの身分。やはりトートイス商会の子飼いだった。末端ではなく中堅の者たちで、直接トートイス商会会頭の命令を受けて来たようだ。目的はリーンの誘拐。危害を加えないことを条件にされていた。
その理由は知らされていないようだったが、仲間内の噂では、王子がリーンにご執心なことが知られており、きれいなまま引き渡すため、というのが一つ。または、トートイス商会が力ずくでハイワン商会を潰す人質にするためとからしい。
王子が手を出すならもっと公然とやるだろうし、恐らく後者が近いだろう。
こうして、前にアイゼンに聴いたことがはっきりした。また、誘拐は一つの手段であり、これまでに色々なことをハイワン商会に仕掛けていたことも吐いた。
「なるほどね。さて、このまま帰してこちらの手の内を晒すのは避けたいね。ハイワン商会の護衛達に返り討ちにされたことにしようか。ナユ、できるかな?」
「普通の催眠術でいいと思うよ? やってみましょ。」
ナユは千五百年もの間、脳の研究に携わってきた。歴史上最も詳しい脳科学者だろう。普通の催眠術が普通じゃないのは言うまでもない。4人の意識を戻し、術をかけて解放した。
「さて、敵さんはどう出るか。だな。」
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「奴らはどう動くと思う?」
僕は話を振った。リーンも含めて、四人で卓を囲んでいる。作戦会議だ。これまでの観察で、リーンもそれなりの場数を踏んでいることが伺えた。戦闘は向いてない様だが、状況判断等は冷静に行えるし、見た目通りの可愛いだけのお嬢さんではないことが感じられる。
「お父さんはあまり話してくれないけど、私の状況は大体把握してます。まず、ハイワン商会にとって、色んな意味で私が鍵になっていますよね。私は人の害意が見えるんです。というか、見えるほどにはっきりと感じ取れるというか。この能力で、お父さんの商売相手を選別し、取引のリスクを下げるお手伝いをしていたんです。結果、ここ数年でこの街2番手の商会になりました。面白くないのは昔からある大きな商店やら商会でしょうね。色々な妨害なんかを仕掛けて来るようになりました。けど、味方になってくれる人達もたくさんいるんです。お父さんの誠実な店の運営方針のおかげだと思います。」
僕たちは黙ってリーンの話を聴いていた。その話の中にきっかけがありそうな気がする。
「この国の王子がリーンに執着してるって話だけど、知ってるかい?」
この話題は良くなかったみたいだ。リーンの顔がたちまち苦虫を噛んだみたいな表情になった。
「サンザ王子とは、この街の名士を集めての謁見の場で一度だけお目にかかってます。私ははっきりとこの人に関わってはいけないと感じました。害意とは違うけれど、同等な嫌な感じでした。その場は、トートイス商会会頭が仕切っていて、王族とも大そう親しげだったのを覚えてます。その頃はまだハイワン商会がこんなに大きくなるとは皆思ってなかったでしょうね。」
「王族の皆さんはどうだった? 感じたことでいいから教えて。」
ナユが追撃した。ここはリーンの気持ちを吐き出させた方が良いかもしれない。王族を悪し様に言うことは気持ち的になかなか許されるものではないからね。案の定、リーンから表情が抜け落ちた。
「気持ち悪かったです。その場にはリウサン王とショウケイ妃、サンザ王子が居ましたが、特にショウケイ妃から出る色々な悪意が。」
リーンが当時を思い出したのだろう。体をブルっと震わせた。
ショウケイ妃は隣国ヨークン王国の王家出身だ。彼の国は贅沢を貴ぶ向きがあった。勿論上流階級でだが。
子供の頃からそれに感化されてきた王妃は湯水のように金を使うという。全くもってテンプレな悪妃であった。
それを助長しているのがトートイス商会というわけだ。サンシン王国は国と言ってもせいぜい人口三十万だ。国庫を使い込むと、すぐに国民の生活に反映される。
「歴史上、王国にしろ共和国にしろ、善政と悪政を繰り返して来たものだ。そうやって学んで進化していくものだが・・」
僕がうーん、と考えていると、ナユが的確なことを言った。
「なんか、振り出しに戻るって感じよね。」
そう。旧時代に繰り返したことをまたやるのかね? って感じ。
まあ、その学ぶべき歴史を隠してきたのが僕達だ。少しは責任を取るべきか。
「まぁ。どう出るかはちょっと分からないな。リーンの周りだけは注意しないとなぁ。」
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