第8話 偵察
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特に何かが起こる訳でもなく数週間が過ぎた。
「ナユさん。これどこに置きます?」
リーンはうきうきとした雰囲気で、お店の手伝いをしてくれている。物覚えは良いし、商売に関してはあたし達より遥かに上手だ。しかもかわいいので、リーンがカウンターにいる姿は目立つ。
なので最近は何気にこの界隈の人気店になりつつある。
しかもそれを後押しするようにノエルの存在だ。超美人の彼女を一目見たいのだろう。店の周りに人が多い気がする。
「ノエル、ここは良いからジンのお買い物を手伝ってきて? あ、ちゃんと着替えてね?」
「はぁ~い。じゃぁ、リーンちゃん、後はまかせましたよぅ。」
ノエルは相変わらず、普段はメイド服を着ている。お気に入りなのか。他のデザインの服を着たことが無かったのだから他に抵抗があるのか。恐らく後者かな。
先日、街娘風の服を何着か街で買ったけど、何着ても似合うんだよね、これが。しかも目立つ。街に出るときはフード付きマントが欠かせない有様。
暫くして、ジンとノエルが降りて来た。これから、食料品の調達にでかける予定。表向きは。
「じゃあ、行ってくる。何か欲しいものはあるかい?」
「そうねぇ。保存食は少し多めにお願いね。」
「わかった。じゃあ行ってくる。昼間は大丈夫と思うけど、警戒はしといてね。」
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敵さんは、襲撃が不発だったことで慎重になっているだろう。今日はちょっとリスクはあるが僕とノエルで潜入調査を敢行しようということになった。
ノエルには光学迷彩の機能がある。周りの景色に同化してわかり難くなる。近づくと分かるが気配を消して潜むには便利な機能だ。これを使ってトートイス商会に潜り込む。昼間から潜入者がいるとは思わないだろう。
ターゲットは会頭。今日は自宅の屋敷に居るはずだ。そして大事な客があることも掴んでいる。
「それじゃあ、頼んだよ。」
「頼まれましたぁ。いってきま~す。」
なんとも緊張感の無い声で平常運転のノエルが高い塀を音もなく乗り越えて行った。本当は潜入調査にもっと適当な、現代から見ればハイテク装置があるけども、万が一人目に触れでもしたら大変だ。現代に合わせた方法が無難。それは人による潜入。人じゃないって? それはおいといて。
僕は外でノエルの捉えた音声をモニターしている。当然動画もあるが、ここではノエルが視認できてないのでチェックできない。どうやら大事な客とは王国の宰相と財務長官だ。
「国の財政は逼迫しておる。これをそなたに明かすのは何故だか理解しておるだろうな?」
「勿論でございます。わが商会をここまで大きくして頂いた御恩は忘れるものではありません。」
「何か策があるのならば聴こう。場合によっては全面的に後押しするぞ。」
宰相らしい男とトートイス会頭の会話が聞こえる。初めから胡散臭い流れだ。
「国庫を潤すには税収を上げることですが、ここ数年の増税で民衆からの吸い上げは限界に来ております。これ以上は反乱が起きかねない。狭い国土だ。広がりはあっという間ですぞ。」
財務長官からは尤もな話が出る。
「心配には及びません。税収に頼らずとも品物の価格を操作すれば、その利ザヤをお渡しすることができます。その価格設定の権利をわが商会に認めていただければ、膨大な収入を見込めます。」
「それでは、民衆の生活が苦しくなるのは一緒ではないか。やはり反乱の種になろう。」
財務長官は少しは話の分かるヤツか?
「物価は納税は別物でございます。国に対する風当たりも逸らせることができます。」
会頭が詭弁を弄し始めた。物価の安定も国の仕事だろ?
ん? 反論しないの? 財務長官。
「しかし、わが商会が市場を操作するには邪魔な者どもがおります。」
「ハイワンの一派か。お前たちは、あれらはどうにでもなると以前嘯いておったではないか。」
「は。申し開きもございません。しかしながら我々の予想を越えてハイワンは大きくなってございます。一つには、未来が読めるという、かの娘の力が大きいかと。ですので、ハイワンの力を削ぎながら、かの娘の奪取。この二つにご協力願えないかと。」
何を言ってるんだろう。リーンにそんな力は無いぞ? ていうか、そんなファンタジー設定通るの? 今度は宰相が言い出した。
「その話は聞いたことがある。創造神に魅入られし乙女だな。王子がご執心なのはそのせいもあるのか。」
僕は思わず耳を疑った。国の重鎮ともあろう者が本気で言ってるのか? しかし・・ 情報、文化、科学どれをとっても大きく後退した現代社会。
僕らにとっては前世界の中世辺りの思想文化を想定すべきなのだろうか。帰ったらナユに話を聴こう。
「分かった。ハイワン商会には娘の件も含め、我々も介入しよう。その代わり、しっかり国庫を潤してもらう。勿論、我々の手数料を差し引いてだがな。」
え~、まじか。むかーしの古典ムービーに出てくる話みたいだな。この流れだと、誰かが解決しないといけないが。勧善懲悪という意味で。どうしよう。
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