第11話 世界樹
▼
「帰ったぞ! みんな!」
俺たち三人は大変な苦労をして居住地に帰還した。
「おお! 生きていたかお前たち!」
「ああ! お帰り! みんな怪我してないかい?」
旅に出て、ずいぶんと時間がたった。三百人ほどの集落だが、人が少ない上に、なんとなく居住地の雰囲気が慌ただしい。
なんだかんだで皆が俺たちの周りに集まって来た。ちょっとお祭り騒ぎだ。俺たちは事故かなんかにあったのだと、皆はあきらめ気味だったようだ。探索にはよくある話だ。
「早速だが長老達に会いたい。いるかい?」
「ただいま戻りました。」
「よく戻った! 皆心配しておったよ。」
俺たち三人は、三人の長老と対面していた。長老と言っても見た目はあまり変わらない。俺たちの一族は見た目の歳をとるのがゆっくりだ。その違いが他種族と折り合いが付きにくい理由の一つでもある。
「ここのところ、新天地への移住準備の最中でな。今、この地には半分位しかおらぬ。お前たちが帰ってきたことを知れば皆喜ぶであろう。して、帰る早々、対面を求めたのは何かな? 何かあったか?」
長老代表のバイロンが問うてきた。
「ええ。その前に、移住の話はどこまで進んでいるのですか? この話はそれと大きく関係しています。」
やはり、この慌ただしい雰囲気は引っ越しか。どこに決まったんだろう。
「新天地は北の大地だ。深い森が広がっている。多少寒いが綺麗な湖の畔だよ。既に先遣隊を派遣した。具体的な居住する土地を見定めている最中だ。」
「ならば、まだ移住は始まってないのですね。それではその移住計画を見直していただきたく。」
俺の言葉に、長老たちは軽く目を瞠った。
「移住計画は既に皆の総意を受けて進行中だ。余程の事でないと止められないぞ?」
「その余程なことと俺たち三人は考えてます。」
ベルマンとガスパーを見ると力強く頷いている。
「世界樹です。」
俺たちは代わるがわる長老たちにこれまでの探索の経過と結果を報告した。
「世界樹とは! 聞いても俄かには信じられぬな。だが、お前たち三人とも同意見なのだな。それではこれは検討すべきか。」
世界樹などという存在は、長老の世代でもお伽噺なのだ。
「それに、気候が良いならばそれだけでも考慮の余地が有るかも知れん。今回の新天地は良い処だが、寒いという一点でしり込みする者がいるのも事実だ。分かった。取り合えず、我々の間で考えておく。だが、皆にはまだ話さないように。移住計画がこれだけ進んでいる中では混乱と分裂が起こりかねん。」
俺たち三人は頷いた。
長老達の家を出ると、突然胸にぶつかってくるものがあった。
「リード!」
「お、わっ! た、ただいま。ユウ。」
ユウは涙目で俺を見上げながら睨んだ。そして俺の頬を摘み、引っ張りながら言った。
「心配したよぅ! 生きてるって信じてたよ! けど、死んじゃったかもしれないって・・ 」
ユウはとうとう泣き出した。ユウファは俺の嫁さんだ。一緒になってまだ間もない。俺は抱き締めて、その黒髪を撫でた。
「だから、初めに家に顔出せって言ったじゃんか。変なとこで責任感強いからな、リードは。」
ベルマンがにやけた顔でそう言った。ガスパーも頷いている。
「じゃあ。僕たち独り身は一杯やって帰るから、リードは早々に家に帰ってゆっくりしなよ! 打ち上げはまた後日な!」
ユウが鼻歌交じりに食事の用意をしている。久しぶりの我が家だ。普通は嫁さんをもらう前に、男の方が小さい家を建てる慣習があるが、既に移住の話が出ていたので、空き家を一軒もらって俺たちはそこに住んでいる。新築ではないが、住むと不思議と自分たちの家になるものである。帰って来た、という気持ちでいっぱいである。
「ごめんな。すぐに顔出さなくて。」
他の事に気を取られて、謝るのを忘れてた。
「いいの! あなたには大事なお役目があったのだもの。こうして無事に帰ってきてくれた。とても嬉しい。」
二人で、料理の皿を並べながら、言い交わした。そして席に着き、普段より豪華に見える食事をしながら、彼女は俺の話を求めた。ユウは冒険譚が大好物だ。
長老の言葉があったが、ユウには語っても問題ないだろう。俺とずっと一緒なんだから。それでも口止めはして、今回の探索の顛末を語った。ユウは目を輝かせてそれを聞き入っていた。手を動かさないと食事が冷めるよ?
「世界樹?」
「ああ。確信はないが、あれが俺たちの伝承にある世界樹ってイメージに近いものだった。」
俺の話を聞いて、ユウはちょっと首を傾げた。何かを思い出してるようだ。
「わたしも父さんから聞いたことある。『地の果つる先の天を貫く大樹を探せ』って伝承があること。」
ユウとその父親はこの一族にとって新参者だ。いや、一族という意味では同類だが、他の氏族出身と言ったらいいか。
何人かで彷徨っていたところで俺たちに合流したって感じかな。俺たちのルーツがずっと西方なのに対し、ユウのルーツはここより東の方だが近い処だ。立場で言うなら俺たちの方が外様だ。
「へぇ。氏族は違っても共通の伝承があるんだな。ということは俺たち一族にとっては重要な事かも知れない。他にその伝承について何かないかい?」
俺は、まぁ伝承について興味が薄かったので、あまり覚えていない。長老直属の言わば氏族の歴史記録係であるビブリアンという職位の人が一番詳しいだろうが。
「そうねぇ・・・ 確かこんな一節があったよ。『大樹に至る者、神との邂逅を得ん』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます