第15話 サンシン動乱~仕掛け

「やあ。君が私を呼び出すとはな。重大な話というので来てやったぞ。」

 大勢の護衛を引き連れた王子サンザは、リーンの姿を見て少し驚いていた。

 場所は、街の神殿の舞台上。結構な広さがある。時間は夕方も過ぎ、辺りは暗くなってきている。

 王子を迎えたリーンは神秘的な衣装に身を包み、舞台の篝火に照らされ、どことなく神々しさを放っている。後ろに控えるのは神官っぽい衣装を着て、前垂れで顔を隠した僕とナユだ。

 リーンはサンザと対峙し、軽く膝を折って挨拶をした。

「ようこそおいでなさいました。本日は、王家にとって重大な啓示がなされたので、少しでも早くお伝えせねばと参りました。先ずは殿下にお話し致したく、僭越ながらご足労をお願いしました。お応え頂きありがとうございます。」

 サンザはリーンが未来を予見できるという話を知っている。少し圧倒されながらも、リーンが目の前にいることに機嫌を良くしながら言った。

「問題ない。私は比較的自由な振る舞いが許される身だ。して、王家にとって重大なこと、とは?」

「これからお話しすることは、この国、そして王家にとって重大な岐路が目前に迫っていることを示しています。わたくしには見えたのです。これから起こる未来の出来事が。」

 僅かずつだがリーンの話が進むにつれて光のエフェクトがリーンの衣装から放たれだした。サンザたちは明らかに気圧されている。いい調子だ。

「これより3日後、東の空から赤い流星が飛来するでしょう。不吉の兆しです。その後、民衆の反乱があります。」

 サンザは少し顔色を悪くしながらも言った。

「民衆の反乱なんぞ、我が王家の兵であっという間に鎮めてくれるわ!」

「殿下はお忘れです。兵の大部分は民衆から徴用された者達だということを。そして、反乱に加わる民衆の数は十万です。」

 具体的な数字というものは、説得に力を与える。リーンは既定の事実かの様に言い放った。

「ば、ばかな! しかし、それが分かっているなら、蜂起前に潰せばいい!」

 サンザは動揺していた。取巻きの護衛達は、リーンが何を言っているのか分からない様だ。リーンが未来予知能力持ちとして知っているのは極一部の人間だ。

「どこを潰すというのです? 誰がどこで反乱を起こすのかは啓示に現れてません。」

「し、しかし、それは本当に起こるのか!」

「ここでお話したのは只の啓示の内容です。どう捉えて頂いても構いません。しかし、わたくしにとっては明確な事実も同然です。わたくしは人が死ぬところを見たくはありません。急いでお伝えしたかった理由はそこにあります。」

 サンザは顔を引き攣らせた。リーンははっきり言わなかったが、自分が死ぬ啓示を受けた、ということを仄めかしたと思っただろう。

「三日後に不吉を背負った流星が現れます。それまでに対策を打つことをお勧めします。」

 リーンは再び膝を折って言った。話すことは終わったということだ。サンザは顔色を悪くして、無言で踵を返した。

 場合によっては、こちらを攻撃してくることを予想していたのでちょっと拍子抜けだった。リーンの言葉はそれだけ衝撃的だったということか。

 さて、次は王族たちが民衆を攻撃するなんて選択を取る前に、国外脱出の道を用意してそちらに誘導しようかね。


        ♢ ♢ ♢


 初め、サンザ王子の言はまるで取り上げられなかった様だった。まぁ、想定内だけどね。現代でも胡乱な話はその目で直接見るまではなかなか信じられないということだ。人は信じたいものだけを信じる。

 サンザには極小の盗聴器を取り付けた。個人に取り付けるにはその身体の中が一番いいんだけど、そんな機会は無かったから、一番身に着けてそうな剣に付けた。実行はノエルだ。篝火はあるものの、薄暗い場所で人知れずの作業はノエルにとっては簡単なものだ。

 盗聴器を通じての話は四六時中聞こえている訳ではないが十分だ。会話の中では宰相が一番関心を示した。トートイス商会を通じて、リーンを未来予知能力の実績を持つ者として認知しているからだろう。


 そして予言の三日が過ぎた。

 その夜、リーンの言葉通り、東の空から真っ赤な流星が現れた。流星?

「ちょっ、ちょっと大きすぎじゃね?」

 赤い火の玉が東の空から西の地平に向かって飛んで行った。轟音を伴って・・。

 僕は思わず隣に立つナユの顔を見た。ジト目のあきれ顔だ。

 リーンは目を丸くして驚いている。ノエルはというと、凄く楽しそう・・

「大丈夫ですよぅ。ブランはちゃんと燃え尽きるよう計算して大きさを決めたって言ってましたよ?」

 ノエルが平常運転で言ってきた。ブランなら間違いないだろうが、何を捨てたんだろう。これでは世界中から見えたんじゃ? 効果的ではあるが。世界中で別の予言が生まれそう。

 ほら、予言した本人が固まっているじゃないか。リーンがちょっとふらついたので、ナユが支えていた。

 ナユは何か言いたげにノエルの方を見た。あぁ、なるほどね。ナユの言う『やらかし』の半分くらいはブランとノエルの仕業か。

 王国中はこの驚天動地の出来事に、まさに大混乱になった。赤い流星が不吉の象徴であることは結構浸透していて、怯えて、家に籠る者、祈りを捧げに神殿に向かう者等。

 ここからは時間との戦いだ。自暴自棄になるような人が出る前に決着をつけよう。

 先ずは王家への工作。王城内も混乱の最中であり、リーンの予言が的中したことで、その内容に十分な真実味が加えられた。この機会にその混乱に拍車をかける!

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