隣人の宅配便

kou

隣人の宅配便

 アパートに住む森谷いつきは、中小企業に務めるしがない会社員だ。

 隣人の元に宅配物が届くのを目撃する。

 何度も続いた。

「景気の良いことだ」

 自身の薄給生活と比べて吐き捨てた。

 いつもの様に、仕事を終えアパートに帰り着くと、宅配業者が荷物を届けに来ていた。

 宅配人はダンボール箱を片手に呼び鈴を鳴らしていたが、隣人は出てくる気配は無い。

 樹は自分には関係無いと思ったが、宅配人は腕にケガをしているのか包帯を巻いていた。

 荷物は大層重いようで、何度も宅配人が抱え直しているのを見て、再配達の苦労を考慮した。

「良かったら、僕が渡しますよ」

 樹は隣に住んでいることを告げると、宅配人は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 手渡された箱を手にした時、その重さによろめいた。

 それ程大きくない箱なのに、鉄でも入っているかの様に重いのだ。見ると品名に《漬物》とあった。それらしく液体と固形物の重さが感じられる。

 こんなに食うのかと思っていると、差出人と宛先人の名前が同じことに気づく。

 つまり、自分で自分宛てに送っているのだ。

 樹は妙だと思いつつも、箱を自室の入口に置く。

 夕食をし休んでいると、ふと箱に目が行った。

 樹は不思議な感覚に襲われた。

 箱からは、言葉では言い表せない気配が滲み出ているのだ。

 異様な静寂が部屋を支配し、周囲の音がどこか遠くに感じられる。まるでガスが部屋を満たす様に、息が詰まる圧迫感があった。

 樹は息を飲み込む。

 すると、隣人が帰宅してきたのを知り、樹は箱を届けることにした。

 隣人は今風の身綺麗な男だ。

 箱を受け取ると礼も無くドアを閉める。

「礼儀知らずだな」

 樹は愚痴を零すも、宅配人の為にしたと納得する。

 数日後。

 樹は職場で隣人が逮捕されたことを知る。

 旅行先で口論になった彼女を殺し、死体を確実に始末する為にバラバラにして宅配便を使って送っていたという。

「じゃあ、僕が預かったのは……」

 樹は、箱を抱えた時に感じた重さに背筋が凍り付く思いがした。

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