第3話 情報好き

 枝石を小指で弾きながら未来は小笑いをしながら歩みを寄せる。

「あの両生類(雨月命)に言われてきたけど、まさかこんな面白いことが起きてるなんてね」

なにがおかしいのか、薄れてゆく意識の中で心配する声だけが頭に響きその場で倒れこんだ。次に目覚めた時には近くの公園でゆいの肩に寄りかかって寝ていた。気絶した後未来は僕を運んだ後、スマホ片手に帰っていたらしい。起きたのは6時過ぎ、ゆいに少しもたれかかりながら帰路についた。


 翌日昼になると未来に呼ばれいつものベンチに座り、話を切り出そうとすると、呼んでもないのに命が藪から棒に現れた。

「やぁやぁ、お二人さんちょうど会いたかったところだよ。」

「さて、未来君、感想を聞こうじゃないか?」

昨日と違ってスカート姿の命が未来に微笑みを浮かべ問いかけた。

「相変わらずのネタだったよ。まったく、あんたには負けるよ」

そういって数千円程の現金を手渡した。


 事件の渦中でありながら蚊帳の外となっている俺は命の肩を掴み、なぜ未来があの場所に来たのか、なぜ昨日事件が起きると教えてくれなかったのか、未来と貴方はどういう関係なのか、なぜ事件が起きると知っていて助けに来なかったのか質問攻めにした。

「いやはや放置してすまないね。だから落ちついてくれ」

相も変わらず笑みは消えない。

「まずは未来君が自己紹介するのが手っ取り早いかな」


 未来が一歩前に出て話し始める

「私は幸野未来、こいつの情報仲間それと香坂護衛隊の一員だよ」

自己紹介を聞くと少し後ずさりした。

「後ずさりされるほど嫌悪されてるの私?まぁ想定内だけどさ」

「言っておくけど昨日まであの子にまったく興味なかったんだよね」

興味ないのに護衛隊に入っているというのはどういうことかと、話を聞くとあれ《護衛隊》に入っているかいないかだと得られる情報の量が違うらしくただ、その場ノリではいってなぜか幹部的なのになったらしい。聞くとその場ノリで入っている人は未来以外にもいるのだと言う。

「これで未来君がなぜあの場所に来たのかと僕と未来君の関係は分かったね」「未来君のおかげで君が抱いていた疑問の2つは解消したし、あとの2つは僕が答えようと言いたいけど実は答えられないだよね。」


 どういうことか再び疑問を投げかけようとすると、唐突に未来の方を向き昨日の話をし始めた、話が終わると未来の顔がはっとしたような顔つきになり、バッグからパソコンを取り出しなにか検索かなにか作業をしていた。パソコンをしまうと同時に一言「そういうことだったの…」と意味深に呟き、概要を説明し始めた。


「さっき香坂護衛隊について少し話したけど実は幾つか派閥があるの、まずは香坂ちゃんガチ恋してる勢、2つ目は皐月否定勢、3つ目が私みたいなその場のノリ勢ここまでは正直問題ないんだけどあと2つ派閥があるのだけど1つが政治家みたいなお偉いさんの子供達、役員勢がいるんだけど彼ら彼女らは親の有利になるような情報の入手だったり、賄賂他にも色々やってるの」

確かに問題であるが現状なにが問題なのか分からない。しかし、次の一言で話の流れが変わった。

「問題は今日役員勢に香坂さんが連れてかれるということ、役員勢総動員で動くらしいわ。こうまで奮起する理由は君なら分かるね」

ゆいの親は料理を振る舞う相手を選んでおり、自分の地位を上げるために来るような客を特に嫌っていて、その結果ゆいの家族誰かの許可証必須の店になったという。

そんな店に政治家や宗教関係の人は確実に正攻法では許可は得られない。

それなら交換材料とてしゆいを拉致し、許可証と引き換えるのが手っ取り早い。嫌な汗が額から流れ落ち予鈴が鳴る。


 未来から詳しく話を聞こうとするが流石に他人事と感じたのか藪蛇に感じたのかはわからないが軽い挨拶だけして立ち去って行った。教室に戻ろうと立ち去る際に命が「また失敗かな…」呟いていたのが気になったが今はそれどころではない。今すぐ教室に向かってゆいを連れ出す......階段を駆け上がりながらふと単純な問題が浮かび始めた。ただでさえ学校の嫌われ者まして周りには護衛隊がいる中どうやって連れ出すか答えは1つ、不可能だったどれだけ頭の中で考え足掻いても不可能がひっくり返ることがなく、不可能という深淵に近づくにつれ階段を昇るペースも遅くなっていった。午後の授業中も誰が敵か、どうすればゆいを逃がせるか不毛な考えをしていた。


 そして下校時刻、未来の言う通り護衛隊の一部が一緒に帰るように言い、いつもと違う道を歩いていった。何度もゆいを呼び止める機会はあった、しかし声がでなかった。そんな自分に呆れながらも違う攻略法を探そうと門を通ろうとするもまるで鎖国でも行っているかのようにどの門にも生徒が配置され試しに通ろうとすると護衛隊の誰かと一緒に帰らないと通れなくなっていた。護衛隊側に味方のいない実質通行止めになり、強行突破することも考えたが拉致られれた場所が分からず当てもないまま彷徨う事になってしまう。しかし何もできずにそのまま地団駄を踏むぐらいならと一歩踏み込むと後ろから肩を叩かれた。振り向きそこにいたのは未来だった。彼女は少し微笑みを浮かべながらも真剣な顔つきで何も言わず手を引かれ、そのまま門を通ることに成功した。


 情報好きというだけあって拉致られれた場所を知っており、一緒に駆けていると少し疑問が浮かんできた

「1つ聞きたいがいいかい?」

少し立ち止まり頷いた。

「何故俺の味方をしてくれるんだ?仮にも護衛隊幹部的な立場、最悪暴力沙汰としてこれからの学校生活が終わり、未来にプラスの事なんてないし俺には未来が満足いきそうな情報も持ってない。なのになんで?」

舌を噛みそうになるほど強く問いかけた。

「君といたら情報が今より手に入るって直観がするからね、護衛隊のほうも最悪抜けても問題ないし」

未来の声色や身振り手振りは本音を語っていた。

「さぁ香坂さんを救いにいこうか」

再び駆け出しながら話し始めた

「ところでなんだけど拉致られてからそこそこ時間も経ってるけど香坂さんの親に役員勢から電話とか来てるんじゃないの?」

「それはないと思う、香坂の親は静かで落ち着いた店が良いって言って店内で電話を使わないし、直に店に行くしか伝える方法がないから..どっから来るかによるけど多少は時間はあるはず」

「それなら、大丈夫かな」


 拉致られた場所は裏の人が確実にいるような事務所で入口には体格の良い男が立っていた。物陰に隠れていて、気が付かれないだろうに思わず少し後ずさりすると飄々とした声で上から呼ばれた。

「新人類とはいえヤクザに武器無しで2人で挑む気かい?」

さも当然かのように命がいた。

「なに両生類?その言い方は武器でもくれるの?」

「いやー面白そうだから香坂君助け手伝わせてよ」

そう言いながら俺に木刀を手渡した。

「いや、木刀渡されても剣術なんて多少嗜んだ程度なんだけど」

「大丈夫、今の君ならヤクザ程度の実力はあるよ」

そんな事実はないもののないよりはマシのため左手に握った。


 さて、いざ攻め込もうとなると入口前に立っている。体格のいい男をどうすべきかという話になった。

「それなら僕に任せてよ」

 それだけ言って男達の目の前へと悠然と歩み始めた。男達から何度も止まれと言われながらも歩みは止まらない。今更ながらどうしてスカートをしているのかと思ってたが、目の前に立つと同時にスカートをめくったが目の前の光景は常軌を逸していた。スカート下からスタンガンを瞬時に取り出し感電させそのまま木製の小太刀で首に軽く叩き気絶させ、どこにあったのかロープで巻いて人目のつかないところに放置した。辿り着いてから3分かからない早業だった。その後俺達を呼び、またもやどこから取り出したか分からない木製の長物を振り回しながら「それじゃ攻め込みますか」とまるで遠足にいくかのように言ってのけた。一連の流れに俺も未来も開いた口が開いたままだった。


 しかし第一関門が開けたのは事実だった。入り口にいた男が所持していた鍵をそのままパクリ、鉄の扉が嫌な音を立て開く。夕日も差し込んできた頃勝ってゆいを助ける以外の選択肢がない戦いの鐘が鳴り始めた。

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新人類 眠り兎 @nemuriminnto

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