第2話 散々な一日

 昨日の一件もあり、少し先にあるゆいの家へと迎えに向かう明朝。視力を上げて先をみるとゆいは玄関先ですでに待っていた。視力を戻しながら急いで玄関先にたどり着く「もー女の子待たせてどうすんの!」額にデコピンが飛んでくる。「ごめんごめん。しかし昨日一緒に行くなんて言ってないのによく待ってたね。」「まぁ幼馴染だし?なんとなーく察したよ」欠伸をしながら答える「そんじゃ行こっか」




 歩き始めようと一歩踏み出すと家の扉が空く、出てきたのはゆいの父親だった。「おはよう、皐月君。毎日こいつの面倒いつもすまないね」俺を見るや否や開口一番少し笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「いえいえ、お祝い事の度に食事頂いてるんですからこれでも安いものですよ」冗談半分で返答しながら横を見ると顔を林檎のように赤くなっていた。


「そうだ折角だしサンドイッチでも即興で作ってくるよ。」




 郵便受けの新聞をサッと取り家の中に戻ってものの数分で即興とは思えないほど見事なサンドイッチを作り上げてきた、ゆいの両親は和洋折衷料理を扱う会員制の高級店を構えているほどの腕前の料理人、味がまずいわけもなくすぐに完食した。横でぺちぺちと腕を定期的に叩かれていたせいで具材が落ちてしまった。


「それでは、そろそろ学校行きますね。サンドイッチありがとうございます。」「よし、行ってこい、これからもこいつのお世話頼んだよ」


視えなくなるまで手を振ってお見送りしていた。




 道中ゆいはプンスカ怒り背を向け口を聞いてくれずにそのままクラスに辿り着いた。香坂護衛隊いつものやつらが近づき俺を弾く様にゆいの周囲を囲いながら席へと誘導し綺麗に纏められた教科ごとのノートやらお菓子やらを頼んでもないのにどんどん渡し始め当の本人は困惑し、何事もなかったかのように早々に座っていた俺の事を視ていたがゆいが起きていると聞いて他クラスからも人が来て徐々にゆいの視界を遮りHRが始まる頃には机の上には貢物の山ができていた。




 授業が始まりいつも通り窓の外を見ているのがばれないよう板書を取る。外では日の光が溢れんばかりに降り注ぎ、木々が揺れ鳥のさえずりが聞こえ思わず心地よく居眠りしてしまいそうだった。眠気覚ましにゆいのいる中央列を見ると望んでいない取り巻きに困惑していた。いつも寝てはいるが子供を教えるように数人で教わらずとも平均以上はとれるのだが当人の意向を無視して教えている様子だった。親から先ほど世話を任せられたが俺が介入するとまた面倒くさいことになると考えていると先生から俺に問題のご指名が入ってしまい問題も分からず頓珍漢な答えをするとクラスの所々で嘲笑が起きる、黒板の文字はすでに消えていた。




 そんなこんなで、昼休みが始まりいつも行くラインナップの悪い自販機の近くにあるベンチに腰掛け、目を瞑り天を仰ぐ。「昨日の奴は一体何だったんだろ、昨日は相手が2人だからなんとかなったけど人数増えて来られたら素手だと対応できないなぁ」


 一人ぼやいていると「いじめっ子君」と玩具でもみつけたように嬉しそうな声で誰かに呼ばれた。呼ばれた方向を見ると目の前に見知らぬ中性的な少年が立っていた。その少年の背丈は低く目測でも150程、そして海の底に引き込まれるような紺色の目をして思わずボーっと見入ってしまっていた。顔の前に手を振られ少し意識を取り戻すと、見知らぬ少年が藪から棒に話を振った。「昨日は大変だったねー皐月君」




その一言は挨拶のように自然でなぜこの名も知れぬ少年が昨日のことを知っているのか、いつから見ていたのかあいつらの事を知っているのかと心拍数がいつもより早くなっていくのが分かる。


「なぜあんたがそのことを知っているんだ!だいたい貴方は誰なんだ!」


思わず怒鳴るように問いかけた


「ちょちょい落ち着いてよ、僕の名前は雨月 命(あめつき みこと)まぁ同学年なんだしよろしくー」


「頭が混乱して、荒々しい物言いをしてしまってすみません。それで、命さん、なんで昨日のことを知っているんですか?」


「それに関してはノーコメント。その代わりに助言を1つ」


「助言ですか?」


「そう。君はあの子と少なくとも1週間は一緒に帰る予定だろう?」命が指をさしている先にはゆいが取り巻きに囲まれ困り顔で昼食を食べていた。


「あの子の取り巻きに邪魔されてどうやっても帰れない日が来る。それまでに、あのやる気のなさそうな取り巻きの、幸野 未来(こうの みらい)って子を仲間にするといいよ」命が再度指差した方を見るとゆいを中心とした渦巻の一番外で何もせず携帯をいじっている女学生がいた。


「まるで未来でも見えてるかのような具体的な助言ですね。まぁいいや、でも助言ありがとう命」


「んじゃ用件は済んだし、また今度」


別れ言葉を言うと早々とどこかへ行ってしまった。


意外にもそこまで時間は経っておらず、弁当をゆっくりと食し、適当に校内を散策してお昼休みを過ごし、午後の授業も午前と変わらない時間を過ごした。




午後の授業も終わり、朝誰にも会わないうちに決めていた待ち合わせ場所兼帰り道の裏門にいた。2.30分もして早くも連れ去られたかと思いながら


待っていると周りを気にしながらこっそりと近づく見慣れた人影が見えた。こちらに気が付くと駆け寄り、憔悴しきった顔で「早く帰ろ」と強引に手をひかれながら帰路についた。




 学校から少し離れた草木の茂った一本道に入るとまた昨日のような視線、それも視線の方向までは分からないが少なくとも3.4人は増えている。ゆいに言うべきか悩みながら、愚痴のオンパレードを聞いていると黄昏時前、まだ相手の顔も分かるぐらいには明るい時間に性懲りもなく昨日の男達と同じような集団が草木の横から現れそのまま15人以上に前後ろを囲まれた。




 視線の相手はこいつらだったのかと結論がでると、武器もない、能力を使ってもこの窮地を乗り切れるか不安や恐怖で浸食される思考を払拭し、皮膚感覚、視力を上げゆいを庇う様に防戦の構えに入った。




 相手はこちらの事などお構いなく2人同時に襲い掛かかる。左右から右フック、左から少し遅れてストレートが来る、ギリギリで避けて片方の眉間とみぞおちを殴ってダウンさせる。それをもう一度繰り返し2人撃退したところで。背後から木刀で背を殴られ目の前で火花が舞い散る。ただの木刀の殴打、しかし今皮膚感覚が研ぎ澄まされている。




 危うく気絶しかけたところでゆいが攫われそうになるところが視覚に入り、なんとか目覚めることができた。ゆいの周りに群がる蠅を払うように無茶苦茶に暴れた。おかげで相手の5人は倒れたがまだ10人以上しかし体力も無く。逃げるかゆいが攫われる可能性があるうえで体力尽きるまで戦い、倒れるか選択を迫られる。しかし相手は待ってくれない。万事休す、そう思った時後方から大きな音を立てて何本もの枝や石がミサイルのように相手に飛び、相手の半数が倒れていった。想定外だったのか気絶し倒れた奴らを立つ鳥跡を濁さずよう全員運び込んでいった。


枝石が飛んできた方向を見るとなぜそこにいるのだろうか未来がそこには立っていた。

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