ある日、なぜか「チュートリアル」が始まってしまったゲーム好きの男子高校生が主人公の物語。
色々あって現代に現れたダンジョンに迷い込んだ主人公は、ボスと戦うことになって…。
ダンジョンが現れ、攻略者と呼ばれる人々が現れる世界に変貌した社会。その生き抜き方は、チュートリアルが教えてくれる(?)──。
主に一人称で進む物語。コメディのような軽い語り口、かつ、怒涛の展開でテンポよく物語が進むため、次から次へと飽きずに読み進めることができた印象です。
また、主人公が序盤から強力な力を手にすることもあって、ほぼ無双状態。強敵やモンスターを相手に力を出し惜しみせず使っていく姿には爽快感を抱かずにはいられませんでした。
そんな本作ですが、主人公は圧倒的な力を手にした一方で、とある大切なものを失います。しかもそれはおそらく、攻略者──ダンジョンに挑む人々──にとって、最も大切なものを。ともすると、生きるうえで欠かせないものでもあるのかもしれません。
ゆえに、どこか主人公は危うげなんですよね。見ていてハラハラさせられてしまいます。でもそれが逆に良い緊張感となっていて、物語全体を程よく引き締めてくれていました。
そして、その緊張感と対になるのが、主人公と友人たちとの軽妙なやり取り。このコメディ感が、とても心地良いんですよね…。
高校生らしくふざけ合い、軽口を言い合い。喧嘩っぽい雰囲気もありながら、それでも、戦闘時には結束する。王道ながら…いいえ、王道だからこそ、良いんですよね…!
特に、ダンジョンボスとの戦いで見せる阿吽の呼吸には「お見事!」と1人で唸っていました。主人公の力は強く、確かに一人でも倒せたのかもしれません。
しかし、仲間と協力することで“確実に”倒そうとする。そこにゲーマーらしい心意気を感じると同時に、自身の力量を冷静に分析し、きちんと仲間を仲間として扱うこと…。ひいては最強の力に頼るだけではない。ボスク◯ボーとの戦いは、そんな主人公の魅力が全面に表れたシーン。必見です!
それにしても…。
ダンジョンの出現によって、社会は大きく変わってしまいます。しかし、社会が変貌する“前に”、主人公には「チュートリアル」が発生するんですよね。それこそ、これから変わる社会に適合するための前段階──チュートリアルだと言わんばかりです。
果たしてそれは、偶然なのか。はたまた、何者かの陰謀が関わっているのか…。もしそうだとして、なぜ、ただの高校生でしかなかった主人公を選んだのか…。興味は尽きません!
奇妙なチュートリアルから始まる、遺志を受け継いだ少年の物語。意図も、理由も、目的も。何も分からないその指示に従い続けた先、主人公に待ち受けるものとは…?
「最強ものは好きだけど、殺伐とした雰囲気は苦手…」
もしくは、
「主人公は強く居て欲しいけど、それはそれとして、成長の余地もあってほしいな…」
そんな、ちょっぴりわがままな方にこそ是非おすすめしたい現代ファンタジー作品。
あなたも主人公と一緒に
『チュートリアル』
受けてみませんか?
僕は元々最強系(無双系とかチート系とか)が苦手で、今まであまり読んできませんでした。
そんななか、ふと目についたこの作品。
「チュートリアル」という言葉に惹かれ、読み始めました。
そして、この作品に引き摺り込ませました。
僕が最強系が苦手だった理由はただ一つ。主人公の最強さを書くが故、“人間味”が作品に現れづらくなるからです。
小説はキャラクターの人間味があってなんぼだと思っている僕にとって、キャラクター性が薄くなりがちな“最強系”というジャンルはどうしても好きになれない対象でした。
そう、この作品を読むまでは。
この作品は、主人公君が最強なのは勿論ですが、人間味に溢れており、主人公がさまざまな感情の中で葛藤します。
まさに生き生きとした“人間味”を感じます。
最強だけど、“強い”だけじゃない。
だからこそ、「最強系」が苦手な方にも是非読んでほしいです!
長文失礼しました。