sideB.怪獣の場合

みょめも

sideB.怪獣の場合

怪獣には、三分以内にやらなければならないことがあった。


3分という時間制限を設けられているのは、何も正義の味方だけではない。


たまには怪獣側の言い分も聞いて欲しい。

日々、街に現れては大暴れするだけが仕事だと思っていないだろうか。

実はそう簡単な話ではない。


『いかに3分手前で必殺の光線を出させるか』


私たちの仕事の出来はこれにかかっている、と言っても過言ではない。


要はどれだけ盛り上げられるか、なのだ。


もちろん、ヒーロー物なので正義のプルトラマンが光線を放って勝たなければならない。

これが大前提である。

だからと言ってプルトラマン登場後に呆気なくやられてしまうようでは、華を持たせられないし、戦いにドキドキがない。


やったやられたのギリギリの攻防の末、プルトラマンの活動限界である3分手前で必殺のプルトニウム光線を出させる戦いこそが、最も良いとされているのだ。




スペックは外見を見れば明らなのだが、怪獣側が優位だ。

からだ中のトゲ、口からは炎を吐き、たくましいシッポは鞭のようにしなる。

それに対してプルトラマンは、やや華奢にも思える体つき。

特に主だった武器を装備しているわけでもないし、会話能力だってない。

基本的に単独行動だ。


それでも、だ。

それでもヒーローは勝ち、怪獣は負けなければならない。

いかにして華々しく散るかが、怪獣の人気に関わってくる。




以前、街に営業回りに行った怪獣Mさんがいた。

Mさんは、プルトラマンのプルトニウム光線を浴びることなく街から退散した。

帰社するやいなやトイレに駆け込んだのを私は見た。

体調が悪く早退した様だったが、その放送回から怪獣Mさんの人気は陰りを見せ、2度目の出演はなかった。




一方、『伝説』と語り継がれているのが怪獣Zさんだ。

Zさんの人気を決定づけた回がある。

それは、プルトラマンに3度プルトニウム光線を撃たせた回だ。

先ほども説明したように、通常は必殺技であるプルトニウム光線はギリギリの戦いの最後に放たれるのだが、怪獣Zさんは1分15秒、1分45秒と2度のプルトニウム光線を受けた後、2分50秒に撃たれたプルトニウム光線でド派手に爆散した。


この回の視聴率は40.5%を記録し話題になった。

怪獣Zさんは「3分で3回も発射させちゃった!」と自慢気だった。

翌週に出されたイメージビデオの爆発的ヒット、写真集のミリオンセラーは説明不要だろう。





さて、私たち怪獣にとって3分の使い方がどれだけ重要であるか、お分かりいただけただろうか。

これらを踏まえた上で、現在の状況を見てもらいたい。


目の前にはプルトラマン。

今日は私が街に繰り出した。

現在時刻は2分30秒。

プルトニウム光線で爆散するには丁度良い時間だ。


それなのに、それなのにだ。

放たれたプルトニウム光線が、記録的に弱いのだ!

光線の軌跡は真っ直ぐではないし、その速度も軽自動車が法定速度を守って走るくらい遅い。

少なくとも、上のような説明をするだけの時間があるくらいには遅い。


おそらく、怪獣が露出の場を求めて頻繁に街に繰り出したため、対するプルトラマンも同じだけ仕事に呼び出されて疲弊しているのだろう。

ましてや、相手は基本的に1人のスタンスだ。

この光線を受けて散ったところで、盛り上がりなんて得られない。

最悪の場合、ヤラセを疑われることもあるかもしれない。

これを避けるべきか、それとも受けて散るべきか。

こんなとき、プルトラマンがもう1人いたらいいのに。


プルトラマン、助っ人を呼んでくれ!


プルトラマン!


助けに来てくれ!


プルトラマーーン!!!

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