幾本もの因果の糸の、「絡み」と「結び」の違い
- ★★★ Excellent!!!
本作は、読み始めると極めて面白いのでページを進める手が止まりませんが、読み始める前に深呼吸することをお勧めします。極めて複雑な構造をしているため、全貌を理解するのに熟考を要しますから。
怪異と怪談、かと思えば金融商品知識と都心に広がる夜の街の華やかさ。血縁があれば師弟関係もあり。この一作に投入された設定を「効率的」に使えば、何本の小説を書けるのか……
ホラーも、コメディも、両方あり。本作のジャンルは何か。それに悩むのが嬉しい希有な小説です。
そうして語られる物語は、幾本もの因果の糸が、離れることなく別の場所で関係を持ち、一体を保っています。
しかし「絡み」(しがらみ)と「結び」は違います。結んであれば保ちたいですが、絡んでいれば将来には解きたいものです。
さて本作で、因果の糸の繋がりは、どちらでしょう?
「絡み」か「結び」か。その差違が本作にて一貫して語られます。
結果としてどちらに倒れたのかは、ここでは語りません。
しかし幸いなのは、主人公が「結び」を目指したこと。達成するために破天荒な行動を続けて周囲を牽引します。そんな主人公が出張っていることで読者は心強く物語を読み進められます。
いやあ、稀なものを見られます。真に「奇談」です。