ひと頃は次の言葉が流行りました。
「じゃない方」
ある名前が有名だけれども、蓋を開けてみれば内部には二人とか二つとか複数あるものの有名なのは一方だけで、もう一方は人が見向きもしない…… 見向きもされない方を揶揄する言葉です。
本作の題名は「自転車部ではなかった夏」。まさしく「じゃない方」なのですが……
楽しいんです。気兼ねなく言い切れます。
他人から見られていなくても、本人が楽しいことは楽しいんです。隠しているのでもありません。周囲が楽しさに気づいていないだけです。いいものに気づけた人だけが味わう甘味です。「じゃない方」もいいものです。
そして本作は青春のこそばゆさが溢れています。女の子が男の子に寄せる好意は、手管を知らずたどたどしいもので、裏表がなくて読者を穏やかな気分にします。
隠していないのにいつの間にかできあがっている秘密の穏やかな甘さ。いいですよ。