「夢はいつか覚めるのね」と流した涙で、「種の垣根を越える愛」を釣る。

 人間からペンギンへ。夜に紛れて、ひっそりと陸に上がるその姿はきっと、幻想的な風景に見えるのかもしれません。
 釣り人の間を縫うように、進んでいくペンギン。ペンギンが人語を話す、人と会話が成立することに何ら違和感を覚えずに、夜の闇に溶けるように、ごく自然に溶け込んでいるのは、いつからなのだろうとふと疑問に思いました。あるいは、釣り針のようにひっかかりました。
 自然の中の違和感そのものともいえる、ビル群から目を背けるように、左右に目線を散らせば、素敵な風景が広がっていて。どこまで歩いても、いつまで眺めていても飽きないその風景を楽しんでいる折、まさかの出会いが。初対面でいきなり「月が綺麗ですね」ときますか……いや、清美はペンギンなのだから、人間の理は当てはまらない……? 
 と思ったらまさかの彼もペンギンだったΣ ゚Д゚≡( /)/
 なるほど……陸に上がるのには、ただ上がれば良いというわけではなく、何かしらの手順なり要領なりが必要なのですね。人類……いやもっと広い目で見れば、生物の進化の過程が一朝一夕でできたわけではないように。陸に上がり、ペンギンになることも進化の一部と捉えるならば、そう容易ではないということなのですね。
 淡水の清美、海水の佐久朗。異なる二つの性質を持つ、水が混じりあうことはあるのか。読み進めながら、この先の展開がとても楽しみになってきました。
 同時に、「あぁ、こうも考えられるか。なにも『水と油』ってわけじゃないんだし。元をただせば等しく『水』なんだから、絶対に混じりあわないなんてこともないのか」と思いながら。
 お弁当箱に『詰められた』ご飯によって、徐々に距離を『詰めていく』二人。きらきらとしたガラス玉に満たすは、淡い恋心のようですね。(淡水だけに。
 が、しかし。その輝きは、あまりに淡く。些細なきっかけで曇り、砕け散ってしまいました。嘘、裏切りという影は、ガラス玉を曇らせるには十分すぎるほどに暗い色合いをしていたのですね。
 げんなりとする清美を元気づけようと、隣に座るよに促す源さん。そのまま『釣り』の様子を自分に重ねるほどに、心は疲弊して。それでも『逃した魚は大きい』とあっては源さんに申し訳が立たないとヘルプに入る清美。
 源さんの一言は先述したように『釣り』そのもので。
 トカイとイナカ。
 先細りしていく未来ならどんどんと進化してしまえと思うトカイ。しかし、いくら進化したところで行き着く先は袋小路と決まっていて。
 対して、緩やかに退化するイナカ。昔に戻るのは良いとしても、乱暴な言い方をすれば、それはただの延命措置でしかなく。
 良し悪しという物差しでは測れない問題は数あれど、これもまたその一つなのかもしれません。少し前に、同じ水なんだから~と書きましたが、同じ水でもやはり混じりあうことは難しいのですね……。あるいは、互いに違う水同士をくっつける『油』でもあれば、話は変わってくるのでしょうか。
 孤独は、ペンギンをも殺す猛毒のようで。夢から覚め、体も冷め、一刻も早く清美を温める火を、とただただ祈るばかりでした。
 普遍的な日常へと戻った清美の元へ来訪者が。扉を開けた先にいたのは……機械の体を手に入れた佐久朗の姿。
 無機質な銀色の体。けれど、その唇から語られる言葉はとても温かく。吐息が泡となって昇っていくけれど、それは決して泡沫なんかじゃないんですよね。現実なんですよね。
 生身の体と機械の体では混じりあうことは叶わないのかもしれない。けれど、二人の世界は今、ここに確かに完成されたのですね。