今日も藤巻刑事は新人を育てる

解答編

　奥野（おくの）は、右手で左手を叩（たた）いて答えた。

「あ、そうか、ベルトですね！　ベルトで首を絞（し）めたんですね！」

　藤巻（ふじまき）刑事（けいじ）は、思わずため息をついた。

「いえ、違います。ベルトの幅は五センチほどで、首にある跡（あと）は三センチほどなので」

　すると奥野は、悔（くや）しがった。

「あ～、そっか～……。じゃあ凶器（きょうき）は一体、何なんですか？！」

　藤巻刑事は、女性の髪を指差（ゆびさ）した。

「髪です。髪が凶器だと、思われます」

　奥野は、驚（おどろ）いた。

「そんなバカな？！　一体、どういうことですか？！」

　藤巻刑事は、自分の考えを告げた。首の前部（ぜんぶ）に跡があることから犯人は被害者の髪を後ろから両手で持ってねじって、後ろから首を絞めたと考えられる。だから髪がところどころ、うねっている。これは、消去法です。直径二センチのロープと幅五センチのベルトを除くと、残るひも状のモノは髪以外ありません、と。

「なるほど～」と頷（うなづ）いている奥野に、藤巻刑事は聞いてみた。

「それでは、誰が犯人だと思われますか？」

「え？　いや、急に聞かれても、分かりませんよ！」

　すると藤巻刑事はヒントを出して、奥野に考えさせた。

「さて、被害者は若い女性です。若い女性がスイーツで有名なホテルに、一人でくると思いますか？」

　奥野は、答えてみた。

「えーと、一人でくる場合もあると思うんですが……。いや、殺されているから、一人ではきてませんね。すると……、あ、友人とか、彼氏とか？！」

　すると藤巻刑事は、頷いた。はい、そうですね。いわゆる、通り魔は犯人ではないでしょう。被害者の後ろから髪で首を絞めるには、被害者のすぐ後ろに立たなければなりません。親しい友人、彼氏ならともかく、初めて会う人にはすぐ後ろには立たせないでしょう。とにかくサバイバルナイフ、『青酸（せいさん）カリ』と書かれた小瓶（こびん）、ロープがあることから強い殺意（さつい）を感じます。それでは被害者の、交友関係（こういうかんけい）を調べてみましょう、と。

　そして藤巻刑事は、ホテルの部屋を出た。

「ふむ、三分二十秒ですか。まあ今回はこれで、いいでしょう」

　すると奥野も藤巻刑事の後を追って、ホテルの部屋を出た。