【KAC20241】ミッドナイト・フュージョン

貴葵 音々子

暴食猫と四半期に一度の君

 タマキには三分以内にやらなければならないことがあった。


『吾輩は古今東西全ての生物の中で最も可愛くプリティでラブリィでリーブリヒでミニョンでカリーノでドゥルキスでカズーリな猫である。名前はタマキ』


 余すところなくパンパンに肉が付いたワガママナイスバディな白黒ハチワレ猫は、半月型の目を細めた神妙な面持ちでキッチンをズシズシ歩いていた。目的地は炊飯ジャーである。

 時刻は深夜23時。夕食で残ったご飯が眠る冷たい箱を前に、まずは一礼。開閉スイッチを肉球で押し込み、いざ御開帳。口に咥えたしゃもじで米の一粒まで器用にかき集め、大きめの丼にごっそりよそった。


『残された無辜の白米たちよ。そなたらは朝日が昇れば透明な死装束(ラップ)をかけられ、燃え盛る窯(電子レンジ)でその身を焼かれる。死なせはせぬ、死なせはせぬぞ』


 余った食事を翌朝に持ち越すなんてありえない、というのがタマキの信条である。作り立てをその日のうちに食すことこそ美。電子レンジなど邪道。


 丼の端を咥え、ダイニングテーブルへ飛び乗る。そこで待ち侘びたるは愛しの我が君。四半期に一度しか出会えぬ特別な装いは、タマキを長年魅了してやまない。――だがまだだ、まだ終わらんよ。


 残り一分。時が来るのを粛々と待つ麗しの想い人に背を向け、次に向かうはそびえ立つ観音開きの冷蔵庫。その大きさに怯むことなく、後ろ足にぐっと力を込めて立ち上がった。この猫、太いだけでなくでかい。悠々と届いた前足で扉をこじ開け、一目散に侵入を果たしたのだ。

 だが長居は無用。ドアポケットにあったニンニクチューブを咥え、飛び降り際に尻尾で扉を閉めた。時間にしてわずか五秒。完璧だ。


 さあ、役者は揃った。再びダイニングテーブルに降り立ったタイミングで、時計の針が十二を回る。約束の時だ。


 出来上がった期間限定トマトバジルカップラーメンをご飯にかけ、ニンニクチューブをこんもり絞る。これぞ至福の猫まんま。

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【KAC20241】ミッドナイト・フュージョン 貴葵 音々子 @ki-ki-ki

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