第7話 未来
「おまえ、俺が狼だって知ってたんだ?」
「そりゃあわかりますよ。なめないでくださいね!」
さっさと
今頃『ムッツリ』の伝言を聞かされて、猟師は怒っているだろうか。老いらくの恋を告白しただろうか。
いや無理だろな、とヴォルフは低く笑った。あれはたぶんそういう男じゃない。
笑ったヴォルフを隣で見上げ、ロッタはすこし不機嫌だった。料理を絶賛されたのは嬉しいが、じゃあロッタ本人のことは。そこが引っ掛かってしまうのだ。
「ヴォルフさんは、私が魔女見習いだって気づかなかったんですか?」
「んー、だってさあ、森で迷子になる魔女とかありえねえし」
「ふぐぅっ」
「おまえ本気で魔女になるつもりかよ」
傷つけるつもりなど欠片もなく、ヴォルフは訊いた。そこを確認しないと話が進まないのだ。
「祖母さんちでガチに魔女をやるってんなら、すこしは手伝ってやるが」
「……え?」
「森に用がある時は俺がついてく。適任だろ」
言われてロッタはみるみる顔を赤くした。
仕事を支えてもらい、共に森で生きる。そんなの、そんなのって。
「いきなりプロポーズですか!?」
「なんで!」
ヴォルフ的にはフェアトレードにすぎない。サポートする代わりに料理を食わせてもらうだけだ。ロッタが森の外れに住んでくれれば、日曜日だけと言わずに食事に招いてもらえるかもしれないし。ちゃっかりしている。
「ええー。でも私が働いて、ご飯も食べさせるんですよね。あれ、一家の主は私……?」
「はあッ?」
そうきたか。ヴォルフは頭を抱えた。
「俺はひとりでも生きていけんだよ。だいたいコドモに興味はねえ、出直してこい」
「もう! 何かっちゃコドモコドモって……」
ぶちぶちとロッタが言うが、ヴォルフは知らん顔で歩いた。
本当はわかっている。
コドモはすぐにオトナになるのだ。
そうして出直してこられたら、自分はロッタをどう思うのだろう。
あるいはロッタが誰かと結婚したら。すると手料理を毎日食べるのは相手の男になるわけで。
「やべ。なんかイラっとした」
「なんですか?」
「なんでもねえよ」
ヴォルフは手を伸ばし、ロッタの頭を赤いフードごと抱き寄せてみた。
「ひゃん!」
硬直するロッタを、わしわし、と犬猫のように撫でてみる。腕に収まる感じは悪くなかった。
「――こういうのは成り行きだからな」
その時がくれば、そうなるのかどうかがわかる。それでいい。
まあとっくに胃袋はつかまれているのだが。その点について抗おうという気は皆無のヴォルフだった。
おしまい
黒き魔狼と赤ずきん 山田あとり @yamadatori
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