第6話 誠実
ドンドンドン、と忙しなく魔女の家の戸が叩かれる。同時に猟師の声が響いた。
「無事か!」
「はいはい、もちろんよ」
ロッタの祖母はおっとりと戸口を開けた。草まみれの猟師を見て吹き出す様子はいつも通りだ。笑われながらも猟師は室内を見回す。
「ロッタは? 魔狼が来なかったか?」
「来ましたよ。大丈夫、ヴォルフは私たちを食べたりしないから」
「いや、だって魔力が衰えた時には」
「魔女を呑み込むなんて伝承もあるけれど。そんなこと信じてる人がまだいるんだ、って笑ってたわねえ」
ヴォルフは考えたのだ。魔狼が魔女の魔力を喰らうという伝説を真に受けて、ロッタと祖母を守ろうとしたのではと。
猟師から感じる必殺の圧はただごとじゃなかった。察するにその理由は――ロッタではなく祖母の方。
「ヴォルフさんから伝言ですよ。『超迷惑。俺はロッタの飯が好きなだけ』ですって」
「軽いな!?」
「若いっていいわねえ。ご飯だけですか、てロッタが怒るのよ。ふふ」
「おう……」
「あ、もう一つ。『ムッツリかよ』って」
ガタッ。不意を突かれて猟師は膝から崩れ落ちた。魔狼め、と歯ぎしりする。
「あらあら。あなたたち何があったの?」
優しく傍に寄り添ってくれるこの魔女に、猟師は何も言えない。
魔女を支えた亡き夫のことも、子らのこともすべて見てきた。孫のうちで魔力は強いが頼りないロッタのことだって大事に思う。
それでいいのだ。ただ、それだけで。
横恋慕だろうがムッツリだろうが知ったことか。近しい友人でいることが何より尊い場合もあるのだから。猟師はフ、と微笑んだ。
「若い者にはわからんか……」
「ヴォルフさん? ちょっとヤンチャだけど芯のある人でしょう」
「人ではなかろう」
「狼だけど――人よりも真っ直ぐな心がありますよ」
そうかもしれない。闘ったから――闘って負けたからわかる。自力でツタを切れるようナイフを取り上げなかったヴォルフの配慮。
どうなるかはロッタに任せてと言われ、猟師は渋々うなずいた。
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