第二章「伴侶」 第10話
スラグハートを出発した私たちが最初に向かったのは、ハーバス子爵領の領都ラントリー――ではなく、シンクハルト領からラントリーの間にある《観察》の
本来ならハーバス子爵への挨拶を優先すべきなんだろうけど、普段から親しくしていることや位置的な問題から、手紙で先に許可だけ貰い、会いに行くのは後回しにさせてもらったのだ。
そんなわけでスラグハートから徒歩で数日、到着した
道は荷車がなんとか通れる程度、入り口を守るのも数人の警備兵と小屋だけ。
当然のように近くに宿場町も存在せず、しっかりと下調べをしておかなければ、辿り着くのも困難と思えるような場所にあったが、私たちが訪れることは事前に知らされていたようで、警備兵たちは私たちの姿を見ても少し驚いただけで、すぐに
そうして入った、人生二度目の
「思った以上に、自然ですね……?」
外の様子から想像はついたけれど、地面はまったくの未整備で凸凹した岩が剥き出しの状態。
当然、当家の
唯一手が入っているのは、順路に沿って張られた縄。
逆に言えば、これがなければただの洞窟との区別は付かなかっただろう。
「ルミお嬢様、むしろこれが普通だぞ? 《強化》の
「それは理解していますが、これだと普通の人は副祭壇まで行くことすら難しいのでは?」
しかし、そんな私の言葉にアーシェとラルフは、兄妹揃って苦笑した。
「お嬢様、普通の人はこの
「……そういえば、そうでしたね」
《強化》の
対して、ここで覚えられる《観察》は用途が限られ、普通の人が活用できるかは微妙だろう。
「この魔法を活用できる猟師や兵士なら、この程度は問題ないしな。ルミお嬢様は大丈夫か?」
「私もそれなりには鍛えていますから、大丈夫だと思います。ただ、ミカゲは……」
「厳しそうなら、俺が負ぶっていくが?」
これまで平然と私たちについて来たミカゲだが、その外見は明らかに子供。
ラルフが気遣うように提案してくれるが、ミカゲはあっさり首を振った。
「問題ない。実は我、戦う技術はないけど、身体能力はお姉ちゃんとほぼ一緒」
それはラルフに対しての言葉だったけれど、それを聞いた私とアーシェは顔を見合わせた。
「そうだったの? 初耳、だよね……?」
「――? ちゃんと言った。一心同体って」
「……あ。え? そ、それって、そういう意味もあったの!?」
確かに聞いた。ミカゲが出現した、その日の朝に。
ミカゲの管理する
「うん。お姉ちゃんが死んだら、我も消える。だから、気を付ける」
「そ、それはもちろん気を付けるけど……。私も死にたくないし」
死なないように気を付けるのは当然のこと。
やや戸惑いながらも頷く私に対し、ハッとしたように声を上げたのはアーシェだった。
「ま、待ってください! ではもしかして、ミカゲさんの身に何かあれば、お嬢様も?」
「そっちはたぶん大丈夫。でも、
ミカゲの返答にアーシェは安堵したような、それでいて困ったような複雑な表情になる。
そして、それとは対照的に、明確に呆れた様子を見せたのはラルフだった。
「おいおい。ミカゲさんは連れ歩かず、安全な場所にいてもらった方が良いんじゃないか?」
私の護衛としては真っ当な提案。
しかし、それを受け入れることができない理由もあって……。
「それは無理。我とお姉ちゃんは、そんなに離れることはできない」
そう。以前、ミカゲが『長く離れることはできない』と言った時は、司書の信条的なものかと思ったのだけど、改めて確認してみると、現実として物理的に離れられないという意味だった。
その距離と時間は明確ではないけれど、何週間も遠く離れることはまず無理らしい。
「地味にデメリットも多いんですよね、私の
私がラルフに肩を竦めると、ミカゲは少し不満そうに「むぅ」と言葉を漏らす。
「司書が与えられるのは、とても名誉なこと――たぶん。それにデメリットを補って余りあるほどのメリットがある――きっと。我の可愛さもその一つ――かも?」
「曖昧だな、おい。ま、ルミお嬢様が決めたなら俺は従うだけだが。じゃ、行くか」
苦笑と共にこちらを見るラルフに私たちは頷き、
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