図書迷宮と心の魔導書
いつきみずほ
プロローグ
この世界の人々は成人の儀式に
そんな話を耳にしたのは、私がようやく一人で歩けるようになった頃のことだった。
もし私がごく普通の幼女であれば、それを聞いたところで『ほへぇ~、そうなんだぁ?』と気にもせず、その日のおやつと何をして遊ぶかの方にこそ、意識を向けたことだろう。
しかし、とある理由により、私はそれの意味するところ――
当然私は、その翌日から努力を始めた。
自分で材料を集めて素朴で温かみのある祭壇を作り、毎日のように神様に祈りを捧げた。
――その祭壇には両親の手が入って、わずか数日で立派な礼拝室へと姿を変えたけど。
二歳年上のお姉様を真似て木剣を振り、剣術を学んだ。
――これまたわずかな期間で、私にはさっぱり才能がないことが発覚したけど。
家にある本をとにかく読みあさり、可能な限りの知識を身に付けた。
――蔵書があんまり多くなかったので、
それ以外にもお手伝いを頑張り、礼儀作法を身に付け、領地の発展にも少しは寄与して……。
もしもこの世に〝徳ポイント〟というものが存在するならば、きっと貯金は十分。
それをいつ使うのかといえば――そう、今この時! 成人の儀式の場を於いて他にない!!
「ルミエーラ・シンクハルト様」
王都にある神殿。名前を呼ばれた私はゴクリと唾を飲み、祭壇の前へと進んで膝をつく。
一般的に授けられる
でも、努力が何の意味もない、なんてことがあるだろうか? いや、ない!
私の尊敬するお姉様は上から三番目、四〇ページを超える
できれば同じ物が欲しいけれど、そこまで高望みをするつもりはない。
「新たに成人を迎える子に、知の女神イルティーナ様の祝福を」
――せめて四番目の
知の女神イルティーナ様は、私が幼い頃から一日も欠かさず祈りを続けていた神様。
神官の言葉と共に、これまでの人生で最も力を入れて祈れば、まるでその祈りに応えるかのように女神様の像が輝き、その光が一つに集約して私の目の前で球となる。
でも、ここまではみんな一緒。感動的ではあるけれど、先に祝福を受けた他の子供たちと同じ。
――問題はここから! ここから!!
手にギュッと力を入れ、祈りながら光の球を見つめていると、やがてそれは本の形へと変化、少しずつ光が収まり、見えてきた
「――え、む、紫?」
それから考えると、紫は青と赤の間に入りそうだけど、こんな色の
私は何度も瞬き。儀式を担当する神官に目を向けるけれど、そこにあったのも私と同じ困惑顔。
しかし、やはり大人。私の視線に気付いた彼は、すぐに穏やかな笑みを浮かべて口を開く。
「祝福は授けられたようです。さぁ」
「は、はい……」
促されるまま手を差し伸べると、宙に浮かんでいた
確かにそこにあるのに、一切の重さを感じない不思議な感覚。
それに感動を覚えつつ、私はそっと
装丁の色は飽くまでもランクの目安でしかない。
重要なのはページ数であり、実際に数えてみればすべての疑問は解決する。
私は一つ深呼吸。ゆっくりと表紙を
「「……え?」」
図らずも、私と神官の言葉が重なる。
目に飛び込んできたのは白い紙――ではなく、ただの紫色。
それが意味するところを受け入れられず、私は動きを止めるが……。
「表紙だけ……? ページが……ない?」
神官の呟きが聞こえ、突き付けられた事実を理解した瞬間――私は意識を手放した。
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