人物や描写全てに必要性と説得力を感じる、知識に裏付けられた民俗ホラミス

冒頭から引き込まれました。目の前に実際に広がるような鮮やかな情景描写、行ってはならない領域に匂いと共に足を踏み入れていく感覚。これからの展開を示唆する、物語の魅力が詰まった導入だと感じました。

理由、理屈、理性。そういったものが物語を通して印象的でした。
言い伝えや霊などは人の心が作ったものであり、科学的に解き明かすことができるでしょう。しかし現代であっても、人は自分の心から「こじつけ」を生み出し続けているのではないでしょうか。頭ではわかっているけど理由をつけて自分の気持ちを優先させる、偶然が続くとそこに意味を感じる、辻褄を合わせたがる等も、そういった類いなのではないでしょうか。
また、身の回りの不可解なことを現実的・理性的なもので解釈しようとする様に、ホラーだからこそ成り立つ逆転の現実逃避を感じました。それも「こじつけ」なのではないでしょうか。

縁というものも印象的でした。
登場人物の出会いや、伏線が繋がっていく様には縁を感じずにはいられませんでした。そのおかげもあって、登場人物たちはトントンと謎に迫っていくのですが、そのミステリー的な流れが、悪いものに意図的に誘い込まれているホラー的な流れにも感じてゾッとしました。
親子という血縁も物語に深く関わっており、様々な形を目の当たりにしました。

知識に裏付けられた数々の描写には好奇心を掻き立てられました。民俗学や科学的根拠に基づいた様々なことにオカルト要素がピタリとハマるように絡み、説得力がありました。
他にも葛藤の中で藻掻く人間や食べ物の描写など、たくさんの魅力を感じました。

登場人物や描かれているもの全てに無駄がないと感じました。
まさにホラーミステリー!

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