第6話
「マジックワンドスペースマツダシンジで検索をかけたら、パスワード入力画面がトップに上がってきます。あ、マツダシンジは私の名です。全角カタカナで入力してくださったら出てきやすいハズです。そして、パスワードはMS881881です。『マツダシンジヤバイヤバイ』と覚えて下さったら良いかと思います」
そんな説明をして、最後に松田と名乗った紳士は店を出て行った。
オレはさっそく携帯端末の検索窓に【マジックワンド マツダシンジ】と入力して検索をかけた。そして、検索結果のトップに上がって来たリンクを踏む。すると、マジック・ワンドというテキストの下にパスワード入力窓だけがある素っ気ないページが現れた。そこにオレは【MS881881】と入力する。マツダシンジヤバいヤバい、か。ヤバいのか?あの男。
パスワードが通り、その次に現れたのは個人情報を入力する画面だった。必須記入欄だけを埋めていく。クレジットカードの番号や住所の入力窓もあったが、そこは必須のマークがついていなかったので飛ばした。なんでもかんでも入力する程、オレは愚かじゃない。
一通り入力を終えてページを進めると、今度は【サービスを試してみますか? このサービスは十分だけ無料でお試し頂けます】と出た。オレは【はい】と書かれたボックスをタップする。
次に表示されたのは、オフにする広告の系統と、フェイクの広告を仕込む選択形式のチェック項目が羅列されたページだった。
当然、オレはエロを除外する。ついでにマンガだとか、ギャンブル等、女性ウケしそうにないものも除外する。そして、逆にオレが全く興味を持っていない、恰好をつける為の項目にチェックを入れていく。ジャズ、文芸、ファッション等、脳内で適当に想定した”落としたい女”が興味を持ってくれそうな項目をオンにしていく。
およそ、三分。オレというペルソナを偽る作業はインスタントに終わった。そして、【お試しスタート】というボックスをタップする。
さて、どうなる事か。オレは新しいタバコを咥え、火を点ける。肺から煙を吐き出す。オレの目の前に漂う煙の中に店内各所に設置された設備からレーザー光が照射される。レーザー光の交点が浮き上がらせる映像は……、近くにあるライブハウスのスケジュールだった。裸の女でもない。マンガでもない。ギャンブル関係でもない。今までに見た事も興味を持った事もない広告を映し出す煙は初めてだ。ほぉ。松田はヤバくなかったか。少なくとも詐欺師ではなさそうだ。
ただ、まったく興味を惹かれない。ライブハウスでジャズバンド?なんだそれ。一生オレには縁のない情報じゃないか。
もうすでに、裸の女のホログラムが恋しい。
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