第4話
「あなたはこのような店に女性を連れてくる事など出来ないと仰いましたが、それは何故です?」
紳士がオレに問いかけてくる。彼の吐き出す煙の中にはクラシックコンサートの広告が映し出されている。
「そりゃあ、個人個人に最適化された広告を見せられている事を皆が知っている現代ですよ。私の煙に浮かぶ裸の女性を見て喜ぶ女性なんていませんから。私という人格をエロオヤジと一言で断罪されて『ハイ、さよなら』じゃないですか。こんなのをカノジョ候補の女性が見たら」
オレはオレの吐き出した煙の中の裸の女を指さしながら言う。紳士との会話を邪魔しない程度の音量で、オレの耳の中に『あなたに愛をデリバリー。愛をデリバリーで検索してね!』と届いている。
「それなんですよ。性欲の強さというのは、野生に於いては悪い事じゃない。種の繁栄は生物の至上命題ですから。なのに、性欲が見えてしまう男性は女性から敬遠されます。それは何故か。性欲の強さが人間社会のヒエラルキーに於いては無用の長物だからです。人間社会に於いての強いオスというのは、経済力が大きいオスであると同義であって、性欲の強さや大きさはノイズでしかないんですね」
「まぁ、私が貧乏人である事は否定しませんが……」
紳士が何を言おうとしているのか、その結論を勝手に想像して怒るのは違うだろう。しかし、どうにも癪に障る。
「っと、失礼しました。お気を悪くしてしまいましたね。申し訳ありません。ごめんなさい。……、ですが、社会のルールを作る者と、ルールに従う者、どちらが強いと思いますか?」
「そりゃあ、作る方に決まってます」
「では、ルールを知っている者と知らない者では?」
「知ってる方ですね」
「えぇ。貨幣経済も先物取引も広告も、ルールを作っている者が強く、ルールを知っている者が強い。ルールを知らないままにルールに従う事を強要される立場が一番弱い」
「はぁ。そうでしょうね」
何を言おうとしているのだ?この男は。マヌケな返答をするオレの隣の紳士の吐く煙に浮かぶ広告は相変わらず上品なものばかりだ。
「このホログラム広告界隈にもいる訳です。ルールを作っている者と、ルールを深く知っている者が。そして、また、女性にモテるメソッドがあり、それはルールとして体系化もされています。ですから、それを深く知っている者もいる訳ですね」
紳士が置いたロックグラスの中の氷がカランと音を立てる。何を言ってるんだ?この男は。何かしらの陰謀論か?
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