第5話
「この、ホログラム広告のシステムはまだ若いものです。そうですね、今が黎明期と言ったところでしょうか。そして、私だって男です。私の煙の中のホログラムにも裸の女性が浮かび上がる事は普通にありました」
「え?どういう事です?」
紳士の告白をオレは聞き返す。
「えぇ。私も男ですから、煽情的に振る舞う女性の裸体が煙の中のホログラム広告に現れる事がよくありました」
「え、でも……」
そう言いながら、オレは紳士の吐く煙の中の上品な映像を指さす。
「ハイ。先ほど、私はエンジニアだと申し上げましたね。私は、このホログラム広告を運営している会社へのサービスも提供している会社のプログラマなんですよ」
「はぁ」
「簡単に説明しますと、個人に完璧にサジェストされる広告をズラすサービスを行っているんです。例えば千円払えば、一時間その人の広告からエロを排除する事が出来る……、そういったサービスを作って提供しているんです、私たちの会社は」
「え?と、いう事は……。今、あなたの目の前に浮かんでいる上品な映像は?」
「えぇ。フェイク、と言って差し支えないでしょう。広告主が最も訴求したい
そう言って彼は笑う。マジか。
「今のところ、個人をターゲットとしたホログラム広告はこういったバー等の小規模な店舗にしか実装されていませんが、水蒸気や霧や煙がある場所であればどんどん実装される可能性を秘めています。もちろん、オープンな場で女性の裸を映し出すケースは考えにくいですが、それでも、人に知られたくないペルソナに関係する広告というのはあると思うんですよね。それを他人に見せない為の転ばぬ先の杖――マジック・ワンド――というサービスを私の会社はやっています」
「おぉ……!マジすか。それはどうやったら利用できるのですか?」
「それがですね……。このサービスはその性質上、大っぴらに世に知られる訳にはいかないんです。このサービスは使い方次第で、指定された時間内だけとてもステキなペルソナなんだと偽れる訳ですが、こういったサービスがあるのだと大勢に認知されてしまうと意味をなさなくなってしまいます。これは……詳しく申し上げなくても分かって頂けると思うのですが……」
紳士はオレの目を見ながらそう言った。
皆まで言うな。そりゃあ分かるさ。
そのサービスでエロをブロック、そして、デキる男を装う広告を表示するように設定しておくって事だろう?
自ら言及する自慢は見苦しいが、隣の女に『何故そんな広告が出てくるの?あなたはいったい何者なの?』と、こちらの自慢に誘導する事がこのサービスを使えば可能だ。女に質問させて、そこからの自慢は効果的だ。
その作戦を実現する為には秘密のサービスでなければならない。
そりゃあ分かるさ。
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