第51話 5度目のクリスマス・イヴ⑬

「似合ってませんって、その服装」

「はぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁっぁぁ?」


 最大限の侮蔑に激昂する天津さん。


 いや、人ってこんなことで怒るんだな。と、今更ながらに驚愕する。


 好きなんだろうね。そのファッション。


 人の性格は服装に出るというが、まさかこんな選択肢が与えられるとは。


 このゲームはよほどクレイジーだ。


「い、いまっ、なんて言いました? は、春一さんっ?」


 顔をヒクつかせながら、彼女は再確認するように僕にそう尋ねた。


 理性はまだ保たれているようだ。


 ただ、追撃するようで悪いが、答えはもう決まっていた。


「いや、だから似合ってませんって。その服装」

「……なっ!」


 ナイフを持つ彼女の拳が、次第に黄色味を帯びる。


 言うまでもなく、彼女は激昂していた。


「殺す」

「試してみましょう。そっちの世界線も」

「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない――」


 瞳孔が開いた彼女が、僕にナイフを突き刺そうとする。


 この人、これが演出だって分かってるんだろうか?


 それくらい、必死になって襲いかかる彼女に引いていると、そこでようやく待望のそれはやってきた。

――――――――――――――――

※天津叶をどうしますか?

▶受け止める

 受け止めない


 いや、今更かい……。どんな選択肢だよ。


※受け止める、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――

 ナイフをすんでのところで受け止めると、僕は彼女の眼を見て言った。


「何回でも言って上げますよ。天津さん」

「はぁ?」

「似合ってませんから。その服装」


 幻聴だろう。ブチィと、血管の切れる音が耳に届いた。


「殺す」


 彼女は力強くそう宣言するが、あくまでこれはゲーム。ナイフは、僕の顔面からおよそ5センチメートルほど離れた地面に突き刺さる。


 天使のような笑みはどこへやら。


 悪魔の形相となった天津さんの顔を見てなお、僕は彼女のことが嫌いになれなかった。


 ストックホルム症候群? それとも、吊り橋効果か?


 理由は判然としなかったが、答えは明確だった。


 数学でもなんでも、過程が分からないのに、答えが分かるときってあるじゃん?


 今の僕は、そんなひらめきに支えられていた。だから、その言葉は自然と口から吐き出された。


「でも、そんなあなたがです」

「は?」


 天津さんの力が一瞬緩んだ。


 そうそう、その顔。いや、本当よくできてる。


 どこまでもな整った顔を見て、問いかける。


――そういうなんでしょ?


 すると、一部始終を見ていた「春一」が、ようやくそこでカラクリを答えた。


◯そうだ。天津叶は、プレイヤーが最も好む顔にされている。ただ、性格の悪いことに、自身が最も嫌うの女性として現れるようにストーリーが組み込まれているんだよ。それを「否定」することが、このルートのだ。


 このゲームは底意地が悪いから、そうだと思った。醜悪さは、水杷の一件で学習済みだ。


――おかしいと思ってたんだよ。


◯何がだ?


――だって、がクリアできないんだもん。


◯あぁ、なるほどな。


 完全クリアするためには、にチューニングされた天津叶を攻略する必要があった。それを、二人はんだろう。


◯説明することで、天津叶ルートに支障をきたすかもしれん。だから、あえて黙っていた。


 ログが流れていく。


 それと同時に、僕の視界は暗転した。

――――――――――――――――

※√天津叶をクリアしました。


※オートセーブします。


※まだクリアされていないキャラクターがいます。


※どちらを選択しますか?

▶椎堂茅夏

 竜胆さくら


※椎堂茅夏、は選択できませんでした。


※自動的に「竜胆さくら」をプレイしました。


※ロード中です。


※ロード中です。


※ロード中です。

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エンドレス⇄スノウ†地雷系ヤンデレ少女から逃げ切れ† 志熊准(烏丸チカ) @shigmaya

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