第50話 5度目のクリスマス・イヴ⑫

――――――――――――――――

※公園を出ますか?

 はい

▶いいえ


※いいえ、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――


 雪降る世界を閉じることは許されない。


 官能的なまでに赤い血が流れ出ているのを今一度確認し、自身の選択に限りがあることを知る。


「時間が無いんスよ」

「そうみたいね。だから、ゲームオーバーになる前に攻略してね」


 ナイフを持った天津さんが、僕に何度目かの催促をする。


 考えろ、考えろ、考えろ――


 彼女が襲ってくることはなさそうだったが、それが不気味にも映る。


 何かを、何かをはずなんだ……。


 分岐した世界の中、僕はこれまでの軌跡を振り返る。


 この世界はゲーム。だからこそ、がどこかに隠されているはず――


 水杷ルートで掴んだ唯一の手がかり。それは、彼女たちヒロインが何かを隠しているということだ。


 だとしたら、それは何か?


「ぐ……っ!」

「あんまり興奮すると、血の巡りが良くなって、すぐ死んじゃいますよ?」

「誰のせいでこんなことになってると思ってんだよ」

「そりゃあまぁ、私、ですかね?」


 うふふ。


 天津さん自身は天使のようなキャラクターだが、血の吐いたナイフを持つだけで、これほど印象が変わるとは。


 今や、彼女は単なるサイコパスに見える。いや、僕の脇腹を刺した時点で、実際のところそうなんだろうけどさ。


「何か、何かヒントが――」


 ぐらつく視界のせいか、吐き気を催す。嘔吐すると血反吐をぶちまけるかもしれない。


 今になってそんな些細なこと、と思うかもしれない。けれど、困難にぶち当たっている僕からしたら、それは一大事なのだ。


 いっそここで……。


 ふと覚えた邪念を振り払おうとしたところ、そこでようやく気付いた。


「あっ」

「どうかされましたか?」


 天津さんと目が合う。


 くりっとした眼がなんとも愛おしい。また、白銀の世界に溶け込むような真っ白な肌の彼女を見て、僕は思った。


 


「なんとなくですけどね」

「はい?」


 怪訝そうに僕を見つめる彼女。


 そうだ。なぜ、こんなことに気が付かなかったのだろう。


 僕は、自身の中にある最も古い記憶を引き出す。


『許さない、許さない、許さない、許さない、許さない――』


 彼女がなぜ、恨めしそうにそう呪怨を浮かべていたのか。その答えは、今なおにあった。


「似合ってませんよ、その格好」

「は?」


 ピンク色のフリルの付いたブラウス、黒のプリーツスカート、レースがひらひらした厚底パンプス――


 どっからどうみたってギャグみたいな服装を、僕はあざ笑うようにもう一度、批評しようと試みる。


 すると、そこに都合よく選択肢が現れた。

――――――――――――――――

※天津叶の服装は?

 似合っている

▶似合っていない


※似合っていない、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る