寛容

無名の人

寛容

最近、20世紀の歴史を振り返ってみるのが「マイブーム」になっており、「アラビアのロレンス」「ライフ・イズ・ビューティフル」「オデッサ・ファイル」「ガンジー」などの懐かしの名作を、久しぶりに「若い頃とは違った視点で」鑑賞している。それと並行して「調べ学習」を実践する中で「頭の中に湧いてきた」キーワードが「tolerance(寛容)」である。そういえば、大昔の名作映画に「Intolerance(不寛容)」という作品(1916 グリフィス)があった。真面目に観たのが20年ほど前のことなので細かい部分については自信がないが、概ね、人類の歴史を振り返って「不寛容」に起因する愚行の数々をオムニバス形式で描いたものだったように記憶している。


第二次世界大戦後、ナチスの戦争責任を追求し続けた先人たちの一人に、マウトハウゼン強制収容所から生還したユダヤ系オーストリア人のサイモン・ヴィーゼンタール(1908 - 2005)がいる。故安倍晋三氏に近い医師のホロコーストをめぐる発言を探知・非難して、彼を国際学界から除名するよう働きかけて日本でも話題になった「サイモン・ウィーゼンタール・センター」の名前は覚えている方が多いかも知れない。この組織は、1977年に米国カリフォルニア州に「ホロコーストの記憶を風化させないための施設」として設立された「寛容博物館」を運営するためにマーヴィン・ハイヤーによって設立された。ヴィーゼンタール自身は、命名料の支払いを受けただけで組織運営にはほとんど関与できなかったそうだ。(Wikipedia)


因みに、「ホロコースト」という言葉は、1978年にアメリカ(その後多くの国々でも)放映されたテレビドラマ「ホロコースト」を契機に普及した言葉であり、それまで一般的だった「ジェノサイド」ではなくユダヤ教の神聖な儀式「ホロコースト」と同じ単語を用いることは、「神への犠牲を捧げる祭司役としてのナチス」をイメージさせ、ユダヤ人殲滅政策の正当化につながるので不適切であるとの批判もあるそうだ。(同上)


不寛容の行き着いた先がナチスのユダヤ人迫害という悲しい歴史であるのだが、被害者であった人々が建国したイスラエルの政府が、パレスチナの人々に対して「極めて不寛容」な態度を取り続けてきたことを考えると、「不寛容」はナチスの専売特許でもなさそうである。むしろ、「不寛容」は我々の身の回りに溢れており、よほど意識して目を凝らさないと存在そのものに気づかないほどに蔓延っているのかも知れない。


移民・難民の受け入れに対する日本国政府の態度も、欧米諸国と比較すると「不寛容」の誹りを免れないだろう。難民条約に批准しても「条約難民」と「避難民」という意味不明のカテゴリーを作って取り繕おうとしているようだし、かねて国際的に不評だった「技能実習生」という名の低賃金労働者供給システムも、制度の目的と実態の乖離が著しいとしてようやく「見直しに着手」しただけである。最近流行りのSDGsに関連しても、性的マイノリティの方々に対する「理解増進法」成立阻止のための立法府の一部によるサボタージュを見かねて「G7議長国日本」に対して他の6か国(およびEU)から一種の「督促状」をいただく有様である。色々な立場の方々がいらっしゃるのだろうが、少なくとも先の大戦でアジア各国をはじめとする諸外国に「多大なる迷惑」をかけた国の末裔として、もう少し「国際的に名誉ある立場」を確立するための努力をしても良さそうには思う。


教育の現場で「異常なまでに厳格=不寛容」な身だしなみ検査を日常的に実施してみたり、「たかが小テスト」の出来が悪かっただけで「罰ゲームや叱責」を喰らうことが正当化されてみたり。報道によると、小テストの不出来な生徒を「裏切り者」呼ばわりするなどして徐々に精神的に追い詰め、自死に至らしめた高校もあるそうだ。個人的には、「にっこり微笑んで留年させてあげる」方がよほど「教育的」であるように思う。(実際、先進諸国の大学では、入学自体は日本ほど難しくないものの、日本のように「自動的に卒業」はさせてくれないそうである。その辺りが、近年の「日本の没落」の要因の一つでもありそうだ。)


人として生まれてから「不寛容の海」にこれほど恒常的かつ無自覚に入り浸っているようでは、我々日本人の「寛容」への道のりはまだまだ先が長そうだ。(愚行は続くよ、どこまでも……)


2023.4.16

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