カ ならず報われるよ よんぶんの4
雨も上がった翌日。
いつも通り学校へ通い、美鳥とは一言も言葉を交わさず目も合わず、気まずい1日を過ごす。友人達からは、痴話喧嘩かと茶化されるが、もう気恥ずかしい事を言われていた日々が終わってしまったのだと改めて俺は絶望する。
俺は美鳥から完全に嫌われてしまい……修復不能となってしまった現実に。
「蓮……」
突然美鳥から声をかけられた。
今日は漫研が休みなので、昨日の報告も兼ねて潮汐と帰宅しようと考えていた矢先である。
「ちょっと、人がいない所まで来て」
呼び出しを受けた。
声をかけてもらったことが凄く嬉しかったが、これ以上自爆しないために過度な期待感をせず、普通に返答して彼女の後を着いて行く。
そして、たどり着いたのは校舎裏。
体育系の生徒達のこもった掛け声が聞こえてくる場所で、美鳥と二人きりとなる。
「昨日は、改めて助けてくれてありがとう……あのまま放置されたら、大変な事になってた」
美鳥から話を始めてくれた。
「それで昨日……私、カエル化したでしょ」
彼女は視線を合わせずに昨日の事を振り返る。
「カエル化については、昨日潮汐ちゃんから聞いたでしょ? 教室でいろいろ……」
「ああ……美鳥はカエルに変身してた時の事を覚えているのか?」
そう聞くと彼女は頷く。
「うん、身体は自分で動かせないけど……蓮が運んでくれて、潮汐ちゃんに相談して保護してくれたのは覚えてる……本当に助かったよ。ありがとう」
少しだけ、美鳥は笑顔になってくれた。
「それでね蓮……その……私が蓮の告白でカエル化したのはね……別に蓮の事が嫌いとかじゃ無くて……」
彼女が歯切れ悪くしどろもどろになりながら言葉を探しているのが伺える。
わかるよ。
美鳥は優しいから、俺が傷付かないように言葉を選んでいる事に。
でも、カエル化してしまったという事実は変わらない。つまり……美鳥が俺の事を生理的に無理だとう事実なのだ。
「美鳥」
俺は彼女の言葉を静止する。
「告白して本当に悪かった!」
「え……」
「俺は、昔から美鳥の事が好きだった。恋人になりたい思う程に……その気持ちを止められなかった」
俺の溜まってた気持ちが漏れ出してしまう。
「でも美鳥がカエル化して、その想いは独り善がりで、美鳥自身の気持ちとか……何にも考えていなかったって昨日気づいたんだ」
「いや……そんなことは……」
彼女何か言いたげで、少し待つが言葉に詰まり俯いてしまう。
俺は続ける。
「それでさ……俺は美鳥の事がまだ好きだけど、これ以上の事はもう言わない。距離も少し置くつもりだ」
「え……」
俺の心の整理がつかない以上、俺自身が美鳥と今まで通りの関係を続けられる自身がない。最近ストーカー化して女性に被害が加わるというニュースを観て他人事だと思っていたが、昨日の出来事もあって自分の理性を制御出来る自信が無かった。
これも独り善がりなかもしれないけど、美鳥ももう俺に気を遣わなくて済むならお互いにこれが1番良いと思う。
「だからさ、出来ればこれからも友達ではいてほしいとは思ってるんだ。普通のクラスメイトの1人。気が向いた時に声掛けてくれれば良いからさ」
「蓮……その……私は別に蓮の事が嫌いじゃ……」
「!?」
彼女の言葉を聞き、思わず手を前に出して静止させてしまう。
「大丈夫! もうそれ以上は言わなくていいから!」
「ええ!?」
「まだ俺、本当はお前に未練があるんだ! でもその気持ちをスッパリ断ち切りたくて……これ以上美鳥に迷惑かけたくないんだよ!」
我慢していた涙が込み上げてくる。
彼女の優しが心にきて、これ以上ここにいるのが限界だった。
「ありがとうな美鳥! また明日な!」
「れ、蓮!」
耐えられず、また彼女の気持ちを聞ききれないまま俺は走って立ち去った。
ーーーーーーーーーーーーーー
「そのまま逃げたの!?」
「ああ……」
「なんで逃げるかな……美鳥ちゃんも言いたい事があったと思うのにそれ……拗れてるなー」
乾いた地面を照らす夕日。
橙色の帰り道で潮汐と合流する。
昨日のお礼とかをするつもりが、先程の美鳥とのやり取りでまだ残る未練に自分が自分に嫌気がさしていることで、もうなんか俺の心はグチャグチャだった。
潮汐は溜息混じりに話す。
「蓮……カエル化した理由が、一概に嫌いだからとか冷めたからだとか……それだけの理由でなる訳じゃない可能性だってあるじゃん?」
「……そうなのか? 昨日俺もネットで調べたけど、だいたい嫌いとか冷めたばっかりだったよ」
「それはネットに書き込んだ一素人の感想。ウチはさ、人間ってそんな単純に判別したりする事は出来ないと思うんだけど」
「……そうかな? そうとは思えないけど」
「じゃあ、また試そうか」
そういうと、潮汐が項垂れる俺の顔に近づき耳元で呟く。
「ウチは蓮の事、好きだよ」
その言葉にパッと視界がさえた。
顔を上げる、含み笑いを浮かべる潮汐の表情があった。
「あー、昨日の続きか」
「ちょっとー不意打ちしたつもりなのに、その冷めた反応はなんなのさ。カエル化してくれればさ、いろいろと実証証明出来たのに……」
思わず俺は鼻で笑ってしまう。
「もう、俺は女心に惑わされないよ。とにかくクールで平常心を保ち、強い芯を持った男になるよ! 俺はこの失恋を経て成長し、次の恋でカエル化させない紳士になるんだ!」
「へー、凄いじゃん。頑張れー」
つまらなそうな表情の潮汐。
そう言えばと思い質問する。
「そう言えば、潮汐って博識だよな。今回のカエル化現象の件で凄い助かったよ」
「まあね、ああいうのも漫画を描くネタになるし、いろいろ調べて知識をつけてるんだよ。蓮もネタ探しでちゃんと勉強しなよ」
そうだ。
潮汐も含めて俺達漫画研究部の部員だった。
俺の絵はそんなに上手くないけど……
「いやー……俺って描くより読む派だからさ。インプット重視っていうか」
「は? まさか、漫画読むだけの為に入部したわけじゃないだろうな?」
「い、いや描くよ! 練習はしてる! 元々美鳥が絵描くの好きだったからいろいろ教わってたんだ。興味もあったし絵描けたらいろいろ良いと思ってるから! SNSでも絵師って神様扱いされるし! モテそうじゃん!」
「考えがよこしま……まあ、良いか。蓮だしね」
潮汐に呆れられた。
だが、彼女の漫画に対する本気度は感じられる。
「潮汐って将来漫画家になりたいのか?」
「うん、まあね」
「やっぱりか、部員中でも1番絵が上手いし、潮汐ならなれるよ」
「世の中そんな甘くないよ。ウチより絵が上手い人や描くのが速い人も、話が面白い人も沢山いるし、ネットを見てると痛感する。今度小学館の小中学生コンクールがあるから応募する予定で頑張ってるよ。中学生最後だし」
「コンクールに応募するのか!?」
息巻いてた自分が恥ずかしくなる程の熱量に驚いてしまう。
だが、これは絶好の機会だ。
「今回のお礼も兼ねてさ、俺も潮汐の漫画手伝おうか!」
「え? ウチの?」
「ああ! 今日は潮汐にお礼がしたいって話したくてさ、何か食い物を奢るよりも役に立ちそうじゃん! ベタ塗りなら俺も手伝える!」
俺の提案に潮汐は最初目を丸くするが、視線を外し俯く。
「いや、ほとんどパソコンのデジタル処理だから
「そっか、じゃあ俺もノートなら家にあるから持って行こうか? めんどくさい作業は俺がやるアシスタントになるよ」
「いや……でも、ほら……家部屋狭くて掃除してないし……男子とか連れてきたことないし……」
急にしどろもどろする潮汐。
良い案だと思ったけど、余計なお世話だったのだろうか?
「れえええええん!!」
突然、後ろから大声で呼ばれる。
俺達が振り返ると、後ろには追いかけてきたであろう美鳥が駆け寄ってくる。
彼女が俺の前まで駆け寄ると、息を整えて俺の目を見る。
「蓮! 私、蓮の事がずっと好きだったの!」
「……え?」
「でも、私……自分に全然自信が無くて……絵も一緒に練習を付き合ってくれて優しいし……蓮ってカッコイイから私は釣り合わないってずっと思ってたの! でも、告白された瞬間、嬉しかったのとちゃんと彼女になれるのか怖くなっちゃって……良くわからないまま頭の中がグチャグチャになっちゃって! それで……」
一気に話し出し止まらない美鳥。
どういうことだ?
美鳥は俺が嫌いでカエル化した。
でも本当は好きで怖かった?
俺がカッコイイ良くて釣り合わないから……頭がグチャグチャに、
「とにかく私、蓮の事が好き! 潮汐ちゃんに負けないぐらい蓮の事が好きなの!」
「え!? ちょ!?」
潮汐も顔を赤くして困惑する。
ダメだわからない。
美鳥の言ってる事の情報量が処理できない。
え? 美鳥への気持ちを諦めたのに、付き合って良いって事?
でもカエル化したよな?
カエル化したら人間関係修復出来ないよな?
でもこれってネットに書いてあった情報で……
突然、食道辺りがムカムカし何かが登ってくる感覚が押し寄せる。
「……気持ち悪る」
思わず口を押さえる。
動悸と目眩で足元から崩れ落ちる感覚が訪れた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「嘘でしょ!?」
美鳥の声が聞こえた。
あれ? 視界が暗い。
薄暗くてなんだか落ち着く。
ここがどこなのか考えてみるが正直どうでも良い。
何も起きない事に心の安らぎを感じる。
そんな事を考えていると、天井が開き光が差し込んでくる。
そこには俺を見下ろす驚いた表情の美鳥と潮汐がいた。
「ゲェ」
声を出したいがゲップが出る。
……いや、ゲップじゃないなこれ。
声が上手く出ないんだ。
「蓮……だよね?」
そう言いながら、潮汐が俺を手のひらにの上に乗っけた。
あれ? 俺なんか小さくね?
「ゲェ」
……ああ、ようやくわかった。
俺……美鳥にカエル化しちゃったんだ。
🐸 カエルカ(完) 🐸
カエルカ𓆏 バンブー@カクヨムコン10応援 @bamboo
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