ル いは友を呼ぶという よんぶんの3
「俺が……潮汐に告白!?」
「そそ、ちょっとやってみてよ」
いたずらっぽい笑みで潮汐が俺の顔を覗き込む。
「おや〜? 蓮、ウチなんかに対してまさか恥ずかしがってるわけではないよね?」
「そ、そんな訳ないだろ!」
「あ……ウチみたいなデブスに告白するのが嫌とかなら無理強いしないよ。それは……申し訳ないと思うからさ」
潮汐は一歩引き、調子に乗り過ぎたと笑って誤魔化す。
俺は潮汐を改めて見る。
身長は俺と同じぐらい。
確かにふくよかそうな体型。
足は確かに太く見えるし服のせいか腰回りは俺と同じかもしれない。
それ準じて胸も大きいし顔も丸顔。
男子がからかう暴言をあえて出すとしたら、確かにデブスという言葉が出るかもしれない。
でも、俺は今まで潮汐にそんな事を思った事は無いし、寧ろこんなに知識があって頼りがいのある女子は会ったことがない。
尊敬の念を抱いてるからこそ、そういう異性に心にも無い告白をするのは気が引ける。
でも……言わないとこうして自虐に入られるのもやだ。
「わかった言うよ!」
「お!」
改まって俺は潮汐と向き直る。
「……」
「……」
改めて見つめ合うと、凄く気まずくて言葉が出ない。
「ま、これからの人生、蓮は何人もの女をたらしめるかもしれないんだから、それの練習だと思って言ってみなよ」
「将来ヤ◯チンになるような言い方はやめろ!」
息を整え、俺は本日2度目の告白をする。
「す、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
漫研の教室に俺の声が響き、やがて雨の音が耳に帰ってくる。
「失敗したからもう一回」
「……は!?」
ニッと笑う人間のままの潮汐からまさかのアンコールを受ける。
「も、もう良いだろ! 潮汐はカエル化しなかったってことだろ?」
「いいや、蓮の気持ちが足りてない気がする。今度はウチの名前も台詞に入れて言ってみて。お願い」
「な、名前も!?」
凄く強くせがんで来る潮汐に、恥ずかしいがもう一度だけ応じる。
「う、潮汐! お前の事がす、好きだ! 付き合ってくれ!」
それを聞いた潮汐は目と口を閉じ、まるで風が吹き抜けて行ったように無表情となる。
しばらく無言が教室に横たわるが、
「ごちそうさまでした」
パンッ! と手を合わせ俺に頭を下げた。
「いや、ごちそうさまじゃねぇ!」
「一生男子から告白されないと思って生きてきたから、蓮のお陰で心残りなく成仏していけそう」
「満足するな! というかカエル化してないじゃねぇか!」
あー、と思い出したように潮汐が呟く。
「うん、別に蓮から告白されても気持ち悪いとは思わなかったし、やっぱり人によって違うんじゃないかな?」
という事は、美鳥は俺の事が本当に好きではなく、どちらかというと嫌いよりで、告白したせいで更に冷めたということなのか?
更に絶望へ落っこちそうな気分だが、それを一瞬で吹き飛ばす提案を潮汐が言ってくる。
「じゃあ、次はウチが蓮に告白してみようか?」
「……はぁ!?」
潮汐から告白される。
そういうこと意識した事無い女子から告白される。
例えカエル化するかの検証だとわかっているのに、告白されるなんて経験が無いからどんな感覚なのかが想像できなくて脈が速くなっていく。
「頭押さえてどうしたの蓮?」
「だ、大丈夫だ! 練習だよな! カエル化するかの検証だよな!」
「そそ、ウチもいざって時の為に言えるようにしておこうと思うから、蓮で練習するよ。ウチに告白された方が蓮もカエル化しそうだしね」
そう言うと、潮汐は女子にしては少し大きい背中を向け顔を押さえる。
「ガチ目に気持ち入れてやってみるから、ちょっと待っててね」
少し顔をゴシゴシして後ろ向きで息を整える潮汐。
そして、振り返る。
彼女の頬や耳が赤いように感じた。
「蓮!」
潮汐は真剣な表情で俺を見つめる。
「ウチ、蓮の事が……ずっと前から……」
言い淀む潮汐。
俺より若干背の低い潮汐は必然的に上目遣いで伝えてくる。彼女の真に迫る想いの俺の鼓膜から鼓動が響く。
緊張で手が震える。
「潮汐……」
「蓮……始めてあった時から……実は蓮の事を……」
彼女も緊張してか、何度も同じ単語を出している。途中から確実に頬が赤くなり目が泳ぎ始めていたが、意を決したように潮汐はもう一度俺の目を見る。
その時だった。
「やめてええええええ!!」
ガタンと用意した水槽が倒れ水が床へこぼれる。
俺達がそちらへ視線を向けると。
人間の姿に戻り、俺達を静止しようと手を伸ばしたと思われるポーズで静止する美鳥の姿があった。
カエルから人間の裸の姿へ。
「「「……」」」
皆がこの状況に静止する。
雨音が窓に当たる音のみが響きが、先に動いてくれたのは、やはりといったべきか潮汐だった。
「蓮、とりあえずすぐに教室に出ていって」
「わ、わかった!」
俺は、あられもない美鳥をすぐに視界から外して廊下へ出る。
ーーーーーーーーーーーーーー
「蓮、入って良いよ」
潮汐から許可が出たので俺が漫研の教室へ戻る。すると、制服にちゃんと着替えた美鳥の姿がそこにいた。
ついでにこぼれた水も綺麗に拭かれており、手伝えなかったのは申し訳無さを感じる。
「……」
美鳥と目が合うなり、すぐさま視線をそらされ顔を隠される。
相当嫌われたんだなと改めて実感し胸が苦しくなる。
「美鳥……その……ごめん」
謝る事しか思いつかなかった。
しばらく時間を置いて美鳥が小さく呟く。
「カエル化してる時に助けてくれて……ありがとう」
美鳥からまさかのお礼がもらえたが、
「先、帰るね……」
返事に答える間もなく彼女は荷物を持ち、走って教室から出ていった。
思わず俺は彼女に向かって手を伸ばそうとするがかける言葉が見つからず、見送る事しか出来なかった。
「また明日でいいんじゃん?」
すると、さっきまで真剣に向き合っていた潮汐がいつものゆったりと間の抜けた口調で肩をポンと叩いてくれる。
「そうだな……」
これ以上考えても仕方ない。
俺は美鳥から完全に嫌われたという事がわかったのだ。
人生最初の失恋であり挫折なんだと思う。
「潮汐……いろいろありがとう。本当に助かった」
「いえいえ、どういたしまして」
落ち込む気持ちを隠しきれなかった俺の声色も潮汐は受け止めてくれた。
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