第181話 勇者と共に
ラトリースの街を出て街道を西へ。
ラックス侯爵家の任務を終えて、ようやくのんびりとラトニアの町へ向けて出発である。
……。
のんびり歩きながらも考えるのは……ラトリースの街で別れたエルフのアイリさんの事である。
「ルーノ、どうしたの? さっきからずっと考え込んでいるみたいだけど」
考え事をしていると、勇者アレンが話しかけて来る。
「いえ、アイリさんの事なんですけどね。やはり今回より以前に、何処かで会った気がしてならないのですよ」
「エルフのアイリさんに? エルフは相当珍しいから、普通は会えば忘れないと思うけどね」
「そうなんですよね~」
私が今までに会った事のあるエルフと言えば、勇者シルヴィナスのパーティーメンバーのロンゲエルフのユリウスだけのはず。それに彼は男だ。
「僕も詳しくは聞いていないけど、アイリさんは同郷の仲間を探しているらしいよ。残念ながら何人かはバイアルに殺されてしまったみたいだけどね。これから生き残りの人達を探すんだって」
「エルフはやはり狙われやすいのでしょうかね?」
「それはあるけど、同郷と言っても全員がエルフでは無いみたいだよ。エルフが他種族と交流するのは珍しいよね。ましてや他種族の人を同郷の人って言うなんてさ。まあ、そういう気質のエルフで無いと滅多に人前には出て来ないんだけどね」
「あ~、そうなのですか」
種族関係無く同郷?
案外、その人達って転生者仲間だったり……。
……転生……者?
『あのぅ……一緒に来ないのですか?』
『あ、いえ……私にはおかまいなく』
『もしかしてお一人で?』
『……すみません……放っておいてください』
『……私達は『迷宮都市グレドニア』という所に皆で行く事になりました。どうするかお悩みでしたら転生先で合流して後でお話ししましょうね』
「――あっ!」
思い出した!
アイリさんはあの時、私に声を掛けて来てくれた女性だ!
どうりで、あの心配そうな表情を見た気がしたと思った。
エルフになった事で、元々美人だった顔が更に美人になっていたけど、あの時の女性で間違いない。
「どうしたの?」
「アイリさんと私は……同郷です」
私の着ている魔装服の事を気にしていたのは、現代日本風の絵師のデザインだったからか。
この魔装服はイリーナさんのスキルで、私の深層心理からデザインを参照して出来た服だからね。
「え? じゃあルーノが、アイリさんが探していた人なの?」
「あ、いえ……同郷と言っても同じ地方というか、同じコミュニティというか……まあ、その時にアイリさんを見た事が有ったんです。やっと今、思い出したのですが」
「そうなんだ」
「アイリさんの仲間探しの旅……私も……」
「う~ん。聞く限り、残念ながらアイリさんと行動を共にしていた仲間の生存は厳しいみたいだよ」
「……でも」
「アイリさんが探す場所は既に勇者聖女協会が調べているからね。それはアイリさんにも伝えている事だけど、彼女はどうしても僅かな希望を捨てられないって」
「……」
そうなのかぁ……。
あの集団は集団で、何か大変な事が有ったという事か。
今からでもアイリさんを追いかけて、合流するかな?
「アイリさんには、また会えるよ」
「え?」
「ルーノと話すのはこれで最後な気はしない、って言われたんでしょ? アイリさんに。それなら何時かまた絶対に会う事になるよ」
「は、はあ……」
「同郷のルーノになら良いよね。アイリさんはね、運命系の祝福持ちなんだよ。だからアイリさんがそんな気がするって言うのなら、その通りになるはずだよ。逆に言うと今はルーノとアイリさんは行動を共にする時では無い、という意味な気がするよ」
「そ、そうなのですか」
祝福――祝福を持つ者は国に一人、居るか居ないかという確率。神に選ばれし者が授かるという。
なるほど、アイリさんは選ばれた人って訳か。
私如きが関わるレベルの人じゃ無さそう。
まあ、他の転生者探しとか、私に特に当てが無いのも事実だしね。
強さだけなら協力出来そうだけど……私の力が必要な時にまた出会うって事なのかな?
「そうですね。また会えるのなら……」
「うん、間違いないよ。その時は他の同郷の人達と会えると良いね」
「そうですね」
心配ではないと言えば嘘だけど、神に選ばれたアイリさんなら、また会う日までは無事だという運命なんだろう。きっと。
もし、再び出会う時は私の力が必要な時だと想定して、ラトニアで私に専用化された武器が手に入ると良いなぁ。
そんな風にアイリさんの無事を祈りながら、街道をアレンと一緒に歩く。
……。
「……ところで今更ですけど……なんで私は勇者様と一緒に歩いているんですかね?」
「勇者様でなく、アレンで良いよ。ルーノはラトニアに向かうんだよね? 僕もラトニアが目的地なんだ。一緒に行こうよ」
いやいやいやいや、勇者と一緒に旅とか勘弁してくれ。
「私に護衛は特に必要無いのですけど……」
「バイアルを倒せるルーノなら、戦力的には護衛は要らないだろうね。だけどルーノの見た目で一人だと、余計な虫は寄って来るでしょ?」
「……そのバイアルって妖魔は、ラックス侯爵家のライアン将軍とブラスト殿によって倒されました」
「あ、ごめんごめん。そういう話になっているんだよね。この話はもうしないよ」
私がケチチ仮面を倒した事、バレテ-ラ。
だけど、私はこれでも前世で世間の荒波に揉まれた元サラリーマンだ。決定的な言質はあげないよ。
「それにラトニアの町には今、普通には入れなくなっているはずだよ。だけど認定勇者の僕と一緒なら何の問題も無く入れるよ」
「うん? 勇者様が何か任務がある様な事が起きているのですか?」
「アレンで良いってば」
「……ではアレンさん、ラトニアで何か……あ、やっぱり良いです」
「あ、あれ? 聞かないの?」
勇者の任務に関わる様な余計な事は聞かないでおこう。
もしかしたら、アレンもラトニアで剣を作って貰うのが目的かもしれないな。
私がアレンの剣を粉砕しちゃったからね。
「まあ、ルーノなら何も問題は無いよ」
「そう……ですか。ではラトニアまではご一緒しましょうか」
「うん、よろしくね! ルーノ」
ラトニアの町に入った後は、アレンとはおさらばだ。
それ位までの短い間なら、特に問題は無いだろう。
と、この時の私は考えていたのだけど……その考えに反し、私とアレンの付き合いは長いものとなる。
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これにてラディエンス王国編は終了です。
次回のラトニア編は作成中です。なので、またしばらく休止期間となります。流石に年内に投稿再開は無理ですね。
応援コメントに返信は出来ていませんが、全て目を通しております。大変励みになっており、感謝です!
今年の二月の投稿開始からここまで読んで頂いた読者の皆様、まことにありがとうございます。
少し早い挨拶になりますが、今年はありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。
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ぶきっちょおっさんのTS悪魔転生記 ひよこ幕府 @hiyokobakufu0331
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