第180話 再びすれ違う転生者
ラトリース城内のマリアンローズ嬢に用意された部屋で、マリアンローズ嬢とティアナ嬢に別れの挨拶をする。
「ルーノ。ありがとう。あなたが居なければラトリースには辿り着けなかったわ」
「何事も無く……ではありませんでしたが、任務を果たせました」
「ふふっ。結局、私がラトリースに何の任務で……と言うのは聞いてこなかったわね」
「私なんかが知る由も無い事ですから」
「ルーノになら教えてあげても良いわよ? 覚悟が有ればね」
つまり知れば権力サイドの人間として生きなければならない。その覚悟が有れば侯爵家の人間として迎えてくれる、と言う訳ね。
野営の時にも似た様な事を聞かれたな。確かその時にも「覚悟が有れば」と言われたと思う。
「申し訳ありません。やはり気ままな冒険者でいたいので」
「そう言うと思ったわ。残念だけど仕方が無いわね」
と、あまり残念では無さそうに微笑むマリアンローズ嬢。
分かってたくせに。
ノブレス・オブリージュ――財産・権力・地位を持つ者は、それ相応の社会的責任や義務を負うという道徳観の事……だったかな?
いくら強くても社会的立場を得るのであれば、そういう義務を負う覚悟が無ければならない。
まあ、私には種族的な問題もあるから、貴族と深くかかわる事は出来ないんだけどね。
そう言う問題が無かったとしても、やっぱりそういう覚悟を持てないのも事実。
力を持つ者として、何かの責務を負う事は考え無いとなぁ……とは漠然と考えてはいるんだけどね。
貴族家の一員として権力を持つ覚悟は無いよ。
「ラディエンス王国で何か困った事が有ったら、ラックス侯爵家を頼ってらっしゃい。助けになるわ」
「ありがとうございます」
「ルーノさん。ご武運をお祈りします。ルーノさんならどんな強敵にも強さ的には勝てるでしょうけど、人の悪意には気を付けてくださいね」
「……はい」
ティアナ嬢、意味深な事を言ってくれるね。
確かにそれが一番怖いかも。ご忠告痛み入ります。
二人と別れ、ラトリース城外へ。
「う~ん。やっと解放されたぁ」
いや、中々にハードな任務だったぜぃ。
ブラスト氏にライアン将軍といった人達が死んでしまったりと、完璧に立ち回れた訳では無いけど、私にしてはそれなりに仕事をこなせたのではないのだろうか?
前世で仕事出来ない人間だったわたしにとって、貴族令嬢から「あなたが居なければ~」なんて言われた、と言うのは素直に嬉しい。
大変だったけど、頑張った甲斐があったというものだ。
報酬として、お金は勿論だけど、ラックス侯爵家との繋がりを得られた。
迷宮都市ヴェダでトップ冒険者としての立場を得た時もそうだけど、やはりある程度、社会的地位が有ると無いのとではかなり違う。
前世では一般人でもネットでいくらでも情報を得て調べたりできたけど、この世界では情報を得るのは大変なのだ。良い武器屋や鍛冶屋なんかは有力者の紹介が無いと相手にしてくれない所も有る。
有力者と繋がりが有ると、その辺が凄く有利なのだ。
ラディエンス王国で活動するのも良いかもしれない。
……共和派が優位を確実にして、国政が完全に安定したらね。
今の私はもう転向の余地が無い位に共和派の人間(?)になってしまった。仮に転向可能でも、それなりに苦楽を共にしたマリアンローズ嬢とティアナ嬢と敵対したくは無いしね。
共和派の人間としてラディエンス国内をウロウロしてたら、また何か面倒な争いに巻き込まれかねない。
この国には落ち着いた頃にまた来る……かもしれない。まあ、候補の一つにはなるね。
ともかくこれでようやく、のんびりと旅を再開出来るね。
そう思いながら、ラトリースの城から街方面へ移動しようとした時……。
「あの、ルーノさん。少しお話よろしいでしょうか?」
「え?」
声を掛けられ振り向くと、そこにはエルフのアイリさん。
「はい。何でしょうか?」
「私はこれからアレンさんの仲介によって勇者聖女協会の協力を得られたので、はぐれた仲間を探す旅に出ます。なのでルーノさんとお話出来るのはこれが最後……あれ? 最後……な気はしないのですが……当面お話しする機会が無いので……」
「は、はあ……」
「ぶしつけな事を聞く様ですみません。ルーノさんが着ているその服、どなたが作成されたのか教えて頂けませんか?」
「え? この服ですか?」
「はい。このせか――えっと、あまり見ないデザインで気になりまして」
「この服は、ルフレット王国の王都で服飾店を開いている魔裁縫士のイリーナという人に作成して頂きました。時々、生まれ故郷のルタの村という場所に戻る事も有るみたいです」
「そのイリーナさんという方は、ここ半年くらいで服を作り始めたのでしょうか?」
「え? 半年程前に作成して貰いましたけど……それ以前から店を持っていた様ですし、その時点で有名な方だったので、少なくとも数年前から活動されているかと思いますが」
「……そうですか」
「えっと、イリーナさんに何か?」
「……いえ、もしかしたら同郷の人かと思ったのですが、違った様です」
そう言ってアイリさんは、何処かの誰かを心配する様な表情を見せる。
うん?
「……あの、私とアイリさんって、何処かでお会いしましたっけ?」
「え? あの山賊のアジトより以前では、ルーノさんにお会いした事は無いはずですけど?」
「……そ、そうですよね。す、すみません。変な事を聞いて」
ナンパ男みたいな事を言ってしまった。
でも、さっきの心配そうなアイリさんの顔……どっかで見た気がするんだけどなぁ?
その翌日、アイリさんは勇者アレンと別れ、仲間探しの旅に出たそうだ。
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