第179話 長かった任務達成!

「申し訳ない!」

「あ、いえ、顔を上げてください、勇者様。丁度、紛らわしいタイミングでしたから仕方ないですよ」


 土下座して謝罪してくる勇者アレン。

 まあ、あれは仕方がない。

 悪意が無い事に関しては私は寛容なつもりだよ。


「し、しかし剣で斬り付けた事は仕方ないでは……」

「いえ、結局、怪我も何も無いですからね」


 実は剣をガードした部分の魔装服が少し破れていた。魔力を纏わせた魔装服を切り裂くなんて流石の威力だ。もう再生しているけど。

 悪意が無ければ寛容……と言っても、実際、私以外だと大事だったのも確かだよなぁ。

 初撃の蹴りはそこそこ手加減されてみたいだから、普通の山賊程度が相手だったらそれで終わったのだろうけどね。


 勇者アレンは正に竜を探す某国民的ゲームに出て来る勇者って感じだ。誠実で正義感に溢れた好青年。熱血漢だけど普段は穏やかで礼儀正しいイメージ。

 軽装両手剣で雷魔法、アレンと言う如何にもな名前。転生者が勇者ロールプレイしているんじゃ? ……とも思ったけど、勇者アレンが勇者と認定されたのは一年程前らしいので、少なくとも私と同期の転生者ではない様だ。

 同期でない転生者が居るのかは知らないけどね。現状、現代知識チートの気配はしないので居ない気はする。


 それから勇者アレンとエルフのアイリさんを連れて、マリアンローズ嬢の元へ。

 勇者アレンのお付きはアイリさん一人らしい。


「ノアの里の認定勇者アレンと申します。冒険者ルーノさんの要請を受け参りました。ルーノさんの話によると、手紙を出したのはルーノさんですがSSランクの魔物を討伐したのはラックス侯爵家の方とうかがいました」

「ご苦労様ですわ。ノアの里の勇者殿。SSランクの魔物故に手強く相打ちと言う形にはなりましたが、当家出身のライアン将軍と当家の執事ブラストにより討伐しました。ルーノ」

「はい」


 異空間倉庫から虹色に怪しく輝く魔石を取り出し、勇者アレンに手渡す。

 受け取る時、勇者アレンがチラリと私の目を見た気がした。


「確かにSSランクの魔石ですね。久しぶりに見ました。流石は武門系貴族として名高いラックス侯爵家ですね。ライアン将軍とブラスト殿に敬意と冥福を」

「ありがとうございます。勇者殿の祈りが当家の英霊にきっと届く事でしょう」


 事前の契約通り、ルアイバとか言う妖魔はライアン将軍とブラスト氏が二人がかりで相打ちで倒したと言う事に。

 あの二人がルアイバと頑張って戦った事は事実だ。安らかに眠ってくれ。


 そして当時の状況を説明する。


「この魔石を持つ魔物は、人の言葉を操る悪魔だったと?」

「ええ。悪魔はルアイバと名乗っていました。当家の従士を操りこの国を乱そうとしていたと思われます。世間で『悪魔の仕業』と呼ばれる事件。我が国でも国王陛下と王太子殿下がその毒牙に掛けられました。その件にも関わっている可能性が有ります」

「恐ろしい悪魔ですね」


 悪魔じゃ無くて妖魔だよー。

 私は全く関係無いよー。

 と言いたいけど、侯爵令嬢と言う貴族様が勇者と政治的な話をしている最中に割り込めない。


「うん? ルアイバ……? 逆さ読みをすると……バイアル?」

「そんな安直な……」


 勇者アレンとアイリさんが、何かに気が付いた様子だ。


「恐れ入ります。その悪魔は特徴的な口調では無かったでしょうか? 『ケチチチ』みたいな。加えて、青い刺繍の入った漆黒のローブに、笑い顔の仮面を付けていませんでしたか?」

「――!? そうですわね。確かにそのような口調に服装でしたわ」


 どうやらルアイバと名乗っていた妖魔は、以前に妖魔バイアルを名乗って勇者アレンとアイリさんと戦った事が有ったらしく、アイリさんがそのバイアルに狙われていた為に勇者アレンと行動を共にしていたとの事だ。実はアイリさんは正式には勇者アレンの従者と言う訳では無いらしい。護衛対象だったんだね。


 その後は勇者アレンと共にヴァロワ男爵の館へ。

 捕らえた山賊の引き渡し、山賊に捕らえられていた人達の対応、そしてようやく認定勇者立ち合いの元でマリアンローズ嬢が貴族と認定され、ヴァロワ男爵から馬車とや護衛と御者やメイドといった使用人を派遣してくれた。

 勇者アレンも西方面に用事があるらしく、ラトリースまで護衛として付いて来てくれた。

 

 こうしてようやく、私達はラトリース伯爵領の領都ラトリースの街に到着したのだった。

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