第178話 VS勇者
砦に近づいてみると、複数人の話声が聞こえて来る。
「アマウラ! お前は回り込んで人質を取るんだ!」
「お頭に報告に戻らなくて良いのか? このエルフ以外にもアジトの中に誰か居るみたいだぞ」
「極上の女エルフだ! ここで逃がしてなるものかよ! アジトの中の奴に対しての人質にもなるだろ?」
「なるほどな。いくぜ!」
「――くっ! アレンさん! 山賊の増援がこっちに来てますっ!」
「させるかよ!」
なんか誰かが争っているみたい。
炎上する山賊のアジト前の広場に、みすぼらしい姿で怯えている何人かの集団。そして先程スタリーが偵察に出した二人の山賊。その山賊から集団を守ろうとしている緑髪のかなり美人の女性……耳が長い! エルフだ!
「おらぁ!」
「あうっ!」
「きゃあああああ! た、助けて!」
山賊の一人がエルフの女性と鍔迫り合いをしている隙に、もう一人の山賊がみすぼらしい集団の中から一人の少女を捕まえ、その首筋に剣をあてがう。
あのエルフの女性は、山賊に捕らわれた人達を助け出す為に、山賊のアジトを襲撃していた冒険者の一人って所かな?
とにかく、もう様子を見ていられない。介入だ!
「おい! エルフの女! おとなしくしな! このガキを殺すぞ? ガキを救いたければ武器をす――ぺっ!」
全力スピードで人質を取っている山賊に高速接近。軽く頭を弾いて頭を吹き飛ばす。
打撲拷問だと相手の根性次第では、すぐに動き出す可能性が有る。捕らえられたと思われる集団を含めたら、今は自衛出来ない護衛対象が多い上にアジトから別の山賊が来る可能性も有るからね。
今回は容赦無く攻撃して確実に仕留める。
少女を抱き上げて、頭が無くなって血が吹き出る山賊の体から素早く離脱。
「――っな!?」
「え?」
救出した少女を集団の元へ降ろし、もう一人の山賊の元へ。
「――ちぃっ!」
「きゃっ!」
相手にしていたエルフの女性に、前蹴りで距離を取りつつ逃げ出す山賊。
背中を向けて走る山賊に速攻で追い付き、頭を吹き飛ばして駆除終了。
後で心に来るのかもしれないけど、後悔はすまい。
どうせ、領主に突き出せば死罪だし、変に手加減してそのせいで冒険者や村人達に被害が出てしまうよりかは何倍もマシだ。
山賊の蹴りを喰らって、体勢を崩して倒れているエルフの女性の元へ。
彼女は弓を装備している。本来は近接戦闘を得意としないタイプなのだろう。
おそらく集団を守る為に、止むを得ず手に持っているショートソードで山賊を食い止めていたんだろうね。
「大丈夫ですか? まだ他に山賊は居るか分かりますか?」
「あ、あなたは?」
山賊二人の頭を一瞬で吹き飛ばしたからか、若干怯えられている様だ。集団連中も怯えている。
まあ、仕方がない。怯える理由は分かるしね。
とはいえ私は精神的には枯れたおっさんだ。感受性豊かな人間では無いから、そんなにショックでは無い。
「私はCランク冒険者のルーノと申します。うっかり山賊に騙されてここに連れて来られたみたいでして……ハハハ」
「え? あなたが勇者聖女協会に手紙を出したルーノさんですか?」
「え? えっと……何故それをご存じで?」
「それはですね……」
「えっと……とりあえず、立ってください」
倒れ込んだままのエルフの女性に、手を貸して起き上がらせようとする――その時――。
「アイリさんから離れろぉおおおお!」
「おん?」
「あ」
背後から聞こえたその声に振り向くと、黒髪の青年が猛スピードで迫ってきていた。
「待って! アレ――」
「――たりゃぁあああ!」
「――わおっ!」
黒髪の青年の蹴りを避けて、エルフの女性から離れる。
明らかにアイリと呼ばれたエルフの女性を助けに来た人だろう。山賊との戦闘前にアジトに向かって誰かを呼んでたしね。
――!
避けつつも暢気にそんな事を考えていたら、黒髪の青年はすぐに態勢を切り替えて私の追撃に迫ってきていた。
早いぞ! コイツ!
蹴りを繰り出して来る黒髪青年。ドレイクバスターズのスリストよりも断然早い!
それでもステータスではやはり私が圧倒的らしく、私の方が早い上に見える。
見えるけど……技量も凄まじく、単純に距離を取るだけの私の回避では徐々に追い詰められる。
そして避け続ける毎に、相手も本気になってきている様で、どんどん攻撃が激しく鋭くなってくる。既に蹴りでは無く、手に持っている大剣で斬り付けて来ている。
こいつ、今まで遭遇した奴で一番強い! あのサキュバスより強いぞ!
仕方がない。
敵対しない様にとマリアンローズ嬢の指示が有るけど、戦闘を中断させる為の、一旦悶絶させる一撃くらいは容赦願おう。
魔装服に魔力を流しつつ、大剣を腕でガード。流石に結構な衝撃だったけど耐える。
さっきまで回避に専念していた相手、しかも非力そうな少女がいきなり大剣を受け止めた事に驚いた様子の黒髪青年。
動きが止まった彼に打撲拷問の一撃――が寸前で避けられる。
マジで強いぞ! なんなのコイツ!?
黒髪青年は態勢を整え、大剣を構えなおす。
そして魔力の流れ――大剣が電撃を帯びる。
魔力纏いのスキル!? 電適性持ちか!?
電撃を帯びた大剣で斬りかかって来る黒髪青年を迎え撃つ為、異空間倉庫からヴェダで作成して貰った黒鉄製巨大団扇を出す。
いきなり出現した巨大団扇に、流石に少しギョッとした様子の黒髪青年の大剣目掛け、魔力を流した巨大団扇を振る。
赤黒く輝く黒鉄の巨大団扇による面攻撃で、黒髪青年の大剣の刀身部分を粉砕。
更に団扇を振った事による風圧……というより衝撃波を喰らって吹っ飛ぶ黒髪青年。
死んじゃいないよね?
良くも悪くもその心配は必要無かったみたいで、体勢を立て直し、着地した黒髪青年が刀身が無くなった剣に更に魔力を籠める。
魔力によって、まるでビームソードの様に雷の刀身が出来る。
「ミゲルの二の舞にはさせないっ!」
黒髪青年が叫ぶと共に更に雷の勢いが増す。ミゲルって誰だよ!?
流石にそれを喰らうと死にはしなくとも出血は有り得る。紫色の血を見られるのはマズイぞ!
と、思ったその時――ばっしゃーんと黒髪青年に水がぶっかけられる。
水で感電したのか、ちょっと苦い顔を浮かべ硬直する黒髪青年。
「アレンさん! ストーップッ!」
「……え? アイリさん?」
「そちらの女性は山賊ではありません! その方が手紙の件のルーノさんです! 山賊から助けて頂きました」
どうやらエルフのアイリさんが、水魔法でアレンとか言う黒髪青年を止めた様だ。
……うん? アレン?
あ! コイツが勇者アレンか! どうりで強い訳だ。
それに私の名前を知っている理由も分かった。
何故ここで山賊のアジトを襲撃しているのかは謎だけど……いや、正義感が強いと聞いたから、山賊に攫われた人を助けてたのかな?
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