横浜の港にくだるその坂では、弁財天の鳴らす琵琶の音が聞こえるという。

横浜といえば、渋滞する高速道路の赤いテールランプと山沿いに密集する高層ビル。四年に一度は仕事で横浜に行っているはずの私は、この小説を読んだ今となっては、そんな貧相な自分の認識に赤面してしまう。
これは、開国を機に大きく変わっていく横浜と、それを温かく見守る弁財天と宇賀神の二柱の物語。開港した横浜は作中では大火を受け、いずれ時代はさらに変わっていく。国破れて山河ありと人は言うが、瞬きのような人の一生も、神仏がともに在ると思えば捨てたものではないから不思議だ。
今度横浜に行ったら、坂に上って港を見下ろしてみよう。変わらないものだって見つけられるかもしれない、そんな爽やかな気持ちにさせてくれるこの作品を、あなたもぜひ味わってみてほしい。

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