3.知の集う街、リーブラ
“パンダ”からの依頼を受け、街へと駆り出した俺と
まぁ、どこからどう見ても振る舞い自体は人間そのものなので、見破ることができないのも無理ないこと……ではあるが。
で、脚を進める俺達だったが、その前に現れたのは──扉のような門……いや逆か? 門のような扉──だった。それまでの……言ってしまえば辛気くさい雰囲気よりも更に酷い重苦しさが、周囲の空気を支配していた。
「さながら、アミューズメント施設ですね」
「間違ってはないかもな。この門の先は──」
俺は、話しかけてきた隣の
「アンドロメダ・シティの娯楽が集う“知”の街……リーブラだ」
・
・
・
「……IDを」
リーブラへと続く門。そこを通過しようとする俺達の前へ、重武装が施されたロボットが現れた。手に持ってるのはデカい銃。人間の子供の身長ぐらいはありそうだな。
機械の音声に身分の証明を問われた俺は、そのまま羽織っているコートのポケットを探る
「……
「はい、マスター」
俺がマシナリー少女へと合図を出すと、そのまま彼女の瞳が青く光った。……と同時にロボットの動きが止まる。
「
と、続いて
「ID照会終了。──ようこそ、リーブラ・タウンへ」
無機質な声がそう告げる。本当はもっと面倒なルートから入る予定だったんだが……偶然にも警備ロボットがコイツしか居なかったので、少し手荒な手段を使った、というわけだ。
俺は──鋼鉄の門の下を歩く。ふと上を見上げると、この”中層”に蓋をしている天蓋から伸びる“壁”が見えた。
ここリーブラは、選ばれたヤツしか入れない“選民街”だ。資格があるのは、スクラップ以外の機械と、機械側の人間だけ。
まぁ、人間を機械の陣営へと引き込む為の餌、とも言える。
「それで、協力者はどこに居るのですか? マスター」
「そうだな、少し面倒な所に居る……とは言っておく」
俺と
「……これは。視覚情報を通して見ると圧倒されますね」
体が機械であるはずのスクラップ・ドールがそう言うのも無理はない。トンネルを通過した人間を出迎えるのは──ライトアップされた機械の城。そして、その下に広がる城下町。
その街全体がネオンに照らされ、うざったいぐらいの眩しさを見た者へと与える。
アンドロメダ・シティに唯一存在する娯楽施設。ここに集まる知的階級を見て、”外”の人間はある
「それが、“知”の街……リーブラだ」
「アイロニー、というものですね」
俺と
このマシナリー少女は、普段は事務所の周辺よりも外へ行かないからなのか、目に映る全てのモノが新鮮なようで。
「ですが、このような場所に人間の協力者が居るのですか?」
「そうなのですね」
とだけ言うと、マシナリー少女は、その視線を再び街へと戻した。そこら中から聞こえてくる愉快な音楽に、暑苦しいほどのネオンによる装飾。
“外”に生きる俺には少し煩い環境だ。……外も外で、街を動かす機械の騒音があるものの、俺にはそっちの方がマシだね。
「
「……マスター、このような道を通るのですか?」
俺達が足を踏み入れようとしているのは……シーブラのメインストリートとは対照的に、明かりも無く、暗い路地。漏れる電飾の光でも、その奥がどうなっているかまでは分からない。
「あぁ。言っただろ? “面倒なところ”に居る、ってな」
そのまま俺とドールは、影を踏みながら裏路地を進む。所々でネズミの死骸やら人間の死体やらが転がっている。ここはさながら、影だ。
網膜が焼けそうなほどの光に照らされたシーブラという街。その裏側の様相。
「……むごいな」
俺は思わず声を漏らす。この道を通るのは初めてじゃ無いが、いかんせんマトモな人間なら胃袋の中のあらゆるモノが逆流しそうな光景ってのもあるし、嗅覚を刺激する腐肉の臭いもキツい。
そして──そのような骸がせめぎ合う道を歩いて行くと、一つの“光”が見えた。光源としてはさして明るいわけでは無い……が、この暗がりじゃそれでも目立つ。
「──マスター」
「……どうした、
……迂闊だった。もう少し警戒しながら進むべきだった。このシーブラじゃ、道を少し外れてしまえば、こんな光景だらけ。言ってしまえば、当たり前。
そう、当たり前だ。だからこそ──気づくのが遅れた。
俺と
背後を見ても同じだ。マズい……囲まれた。
「すみません、マスター。センサーに反応しない光学迷彩のようです」
「……ったく。困ったな、どうも」
俺は──コートの内ポケットを手で探る。……メモリだ。持ってきていて正解だった──と。
そんな俺の手を
「……お、お前、まさか」
「はい。お察しの通りです。マスター」
マシナリー少女が俺の手を離した時だった。彼女の体から“ジャキン”という物騒な金属音が鳴る。あぁ、くそ。こんな狭いところでやるつもりかよ。
俺は急いで姿勢を低くして頭を抱える。そして──その瞬間。
「モード──
無機質な少女の声と共に──“何か”が風を切る鋭い音。マシナリーの瞳が赤色に染まる。恐る恐る、俺が顔を上げると。
「──」
なんと恐ろしいことに、周囲の鋼鉄製の壁に、“何か”が斬ったであろう痕がついている。相変わらず……メチャクチャなヤツだ。
影に潜んでいた何者か達は、その手に持っているナイフごと……上下にスッパリと切断されていた。絵面だけ見るとまるで手品だが、そうでないことを表すかのように、切断面からは赤黒い“血”がだらりと流れ出ている。
「……人間だったのか? ──まさか」
「──
「──クソッ! 強制停止
俺は──
……その信号が上手く動いたのか、
「……なぜ、お止めになるのです?」
そして、すぐに再起動を行った
「……そりゃ、お前が殺そうとしたヤツが──」
俺は、コイツが殺そうとした
「──俺達が会いに来た“情報屋”だからだ」
「……この方が、ですか?」
きょとんとした顔になるドール。
「あー……じょ、嬢ちゃん、これ……どけてくれたらありがたいんだがね」
「申し訳ありません。マスターのお知り合いとは知らず」
「はは……気にしなくていいからさ。元はと言えば、程度の低い“ガード”を雇ったこっちの責任もあるから」
その“男”は、腕に刃を収納したドールへ礼を言うと、俺の方へ歩いてくる。相変わらず、話し方に似合わない“オッサン”だな。
「──酷いもんだね。久しぶりの再会をもっと楽しまないと」
身なりの整った……スーツ姿の男。そいつは、明かりの方へと歩き出すと、俺と
「店に入りなよ。この──“情報屋”の所に来たんだ。何か用事があるんだろう?」
俺達は、この情報屋に導かれるままに、明かりの下へと歩き出した。
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