第3話
幸喜君のお父さんが「すみません」と私に言い、奥さんの背中をさすっていた。しかし、お母さんの憔悴加減はひどく、一緒に控室があるであろう場所に移動していた。
「幸喜君がみんなと会えなくて寂しかったはずだから、会いに行かせてもらおうか」と私が言うと幸喜君の祖父母らしき方々が「そうしてやってください」と言った。
生徒の中には葬儀に参列するのは初めてで、亡くなった幸喜君を見るのが怖いらしく、涙を浮かべていた。私は無理強いせずに椅子に座っているように言った。その子たちはしばらく校長に見てもらうことにした。
棺の中で眠る幸喜君は額や頬に痛々しい傷ができていたが、心地よさそうに眠っていた。ただ、幸喜君の顔を見た瞬間、いつも仲良くしていた子たちは「幸喜!」「幸ちゃん!」と声を出して泣き始めた。その光景を見ると私も目の周りが熱くなってきた。教え子がわずか九歳で亡くなってしまったという悲しみがようやく胸の奥から滲みだしてきた。
手を合わせると、棺の周りを取り囲む子どもたちも私をまねるように同じく手を合わせた。目を瞑り、痛みを感じず安らかな眠りにつけるように祈ったあとに目を開けた。子どもたちはまだ目を瞑り、幸喜くんの名前や感謝を口にしている。幸喜くんに目を向けると、閉じていたはずの瞼がゆっくり持ち上がった。
「今日も学校ないの?」
よく見ると目玉は黒一色になっていて、どこに目を合わせているかわからない。私が後ろに下がると子どもの脚を踏んでしまった。
「いたっ!」
「ご、ごめんね」
子どもに振り返って謝り、もう一度ゆっくり幸喜くんに顔を戻すと、さっきと同じように目を瞑って寝ていた。私が異常に恐怖を抱いているからこんな非常識な幻覚を見てしまうのだろうか。私はもう一度手を合わせた。謝罪の気持ちより、もう二度と目を開けることなく眠ってほしいという祈りが大きかった。
学級閉鎖 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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