「吹奏楽小説」ではないけれども 1

 本エッセイの定義する「吹奏楽小説」とはちょっと言いにくいけども、これは面白いなあとか、この設定にはせめて一言コメントせねば、と思い定めた作品は、こういう形の幕間エッセイで紹介していこうと思います。半分は湾多自身の単なる読書記録ですね。ちなみにここに載せる作品は作者さんには連絡なしで書いてますんで、本編の各記事よリはいくらか遠慮のない書き方になってるかも知れません w。


 さっそく行きましょう。まずはいきなり大物から。



那珂乃「1秒でオトすMUSIC NOTES」 58話連載中 178,136字 2023/3/4公開

    https://kakuyomu.jp/works/16817330651917302788

 主人公は高校吹奏楽部でサックスを吹いている男子部員で、本人はあんまり自覚してないんですけれど、演奏技術的にはかなりデキる方。漠然とそっち方向の進学を考え始めて、地元の音楽大学のオープンキャンパスに出向いた折に、とある学部生の作曲作品――というか、その実演――に、天地がひっくり返るような衝撃を受けて……という感じで始まる、音楽青春小説。

 話は高校編から大学編に入って、いよいよドリーミーなキャンパスライフが始まる……のか? というあたりで、現在休載中。作家本人は書き続ける気満々だそうなんで、続きが楽しみです。

 この作品、湾多も以前レビューを書かせてもらってるんですが、何しろテーマが現代音楽。こんな作品読んで悦ぶ読者がどれだけいるんだと思いますが w、話自体はラノベの文法にきっちりのっとりつつ、年上のツンデレ作曲科のお姉さんと、天才肌のサックスプレイヤーとの煮えきらない関係を、それはそれは愉快に楽しく書き綴っていらっしゃいます。

 電撃の編集部が血迷っ……進取性に目覚めて音楽小説の専門レーベルを立ち上げる話とかにでもなったら、これ、マジで即採用レベルの文章だと思うんですけどね。とにかく、コアなマニアネタが満載ではあるんですが、音楽のこと全然わからない人が読んでも、充分楽しめるストーリーになってると思うんで。

 で、これほどの作品をなぜこのエッセイで見送ったかと言うと、もちろん吹奏楽部の扱いが脇役すぎるからです 笑。部員同士での会話とか、それなりにホットなんですけれど、正直、舞台を美術部に移してもおおむね成立するドラマなんじゃないかな、というぐらいだし。話が大学編に入って吹奏楽の授業とかバンバン出てくるようなら考えますけど……って、もうここで紹介したからいいよね ^^。


2023/03/17 追記

 ご本人の連載エッセイによると、本作は「なるべく早くひっこめたい」とのこと。なんでだ 笑。

 まあ、いろいろ事情は仄聞してましたが、基本的には改作に専念したいということのようですので、完全にお蔵入りしてしまうわけではないようです。とは言え、非公開期間がどれぐらいになるのかは何とも言えませんので、興味を持たれた方は閲読をお急ぎください。このエッセイでも随時情報を更新していければと思います。


 ということで、次。



はおらーん「女子トイレの噂」 全二話完結済 8,074字 2020/5/28公開

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054897730221

 ぱっと見には、部員がだべってばかりの日常系ゆるゆる部活小説かと思われそうなんですが……ちょっとタグの一覧出してみましょう。

   おむつ/おもらし/トイレ/女子中学生/JC/吹奏楽

 で、これに「性描写あり」のレーティング付き。

 もうおわかりですねっ w

 うん、はっきり言って、読み終えたら(あるいは読み終える前に)何も言わずに立ち去るタイプの作品なんだと思います。普通の感性をお持ちの方には。

 ですが、湾多は期待したのです。

 キラキラな練習生活の裏で、有形無形のブラックな場面が発生する吹奏楽部、その暗黒面を、こっちネタのちょっと淫靡な空気を醸しつつ、コミカルにきっちりオチをつけられるんなら、それはそれで面白い作品なんじゃないかと。だいぶん読み手を選ぶ作風になるにしても。

 というわけで、湾多は勝手に「あるべき」ストーリーを脳内展開しました。

・なぜか女子トイレの三角コーナーにパンパースが押し込まれているという噂が

・で、そこは吹奏楽部御用達みたいな位置のトイレ

・もしやxxちゃんが? と推理する主人公

・色々あって、最後はxxちゃんの告白。「だって練習長いし、途中で抜けられないし、音楽室寒いし、休憩短いし、トイレ満員だし」

・あー、じゃあしょうがないよね、と納得する主人公。「じゃあ私もやろうかな」。

・以後、その吹部では女子の間で秘密の裏技が伝統となって――みたいなエンディング

 いかにも実話でありそうなパターンじゃありません?

 もとより、吹部って多人数がずっと同じ部屋に長時間居座らないと練習が成り立たないという、特別な事情がある部活ですから、そこに意地悪な先輩とか絡めたら、確かにこの手のライト下ネタコメディが割と成立しやすいと思うんです(近年はあんまりそういうコメディをコメディと言えなくなりつつありますが)。

 そういうわけで、本音を言うと「この話にはモデル校があります」とかの但し書きがついてたらもっと面白いかも、と、とことんろくでもない想像を広げて読みにかかったんですが。

 結論から言うと、この作品ははっきりそっち系に(つまりエロ雑誌なんかに載ってる創作物の系統に)振り切った展開でした。上の想像は半分ぐらいまでその通りだったものの、一応頻尿に悩む子の話という外観になっていて、まあ秘密を介した女の子同士の友情譚、という括りにしてもいいんですが、雰囲気的には特殊性癖系の読者層を狙った作品だと見なしていいと思います。……なんで湾多は自信たっぷりにそんなジャッジを下せるんだって? ええ、まあそこは、読書経験のなせる業と言いますか ^^。

 そういう訳ですんで、勝手に期待して勝手にがっかりする形になって作者様には失礼かと思いますけれど、吹奏楽に密接に絡んだ舞台設定、とはやや言いにくい話づくりになってるかなあと思いましたんで、エッセイ本編の枠からは見送りました。

 いやでも、実話としてありそうなんですけどね、こういうの。まあ、あったら何なんだ、と怒られそうだけど……待てよ、冬場で催しているのは男子だって同じなんだから、BLファンの特殊マニア層にも声をかければ、あるいは(以下自重)。



 後もう一つ、これも一応吹部が出てくる話ではあるんですけれど、実は「吹奏楽」の検索では引っかからなかった作品です。とあるところでたまたまタイトルを目にして、二日ほどで読み通してしまいました。


おゆ子「音代先生が鳴り止まない」 全五十五話完結済 110,176字 2023/12/1公開

   https://kakuyomu.jp/works/16817330667756921567

 産休の代理教師として赴任した主人公は、しかしやんちゃな高校生たちを持て余し気味。実は彼は、とある事件の余波で演奏活動ができなくなった、若手のホープピアニスト。慣れない教育現場で右往左往しつつ、担当するクラスのちょっとしたトラブルを追っかけていくうちに、生徒たちの信望を得ていくが、その折々で彼の過去に異様に興味を持つある生徒が姿をちらつかせ――という感じの、音楽心理をテーマにした、一見日常系探偵ものの連作短編でありながら、長編サスペンスでもあるという意欲的な作品。

 構想がとてもユニークだし、全編を通してハートフルな展開で貫かれていますが、話によっては結構深刻なネタもあって、かなり重たいものを引っ張りながら、それでもハッピーエンドに持っていった作者の手腕はなかなかのものだと思います。サスペンス部分についてはやや残念なところがないでもないですが(この面については、例によって湾多のエラソーなコメントが最終話に載っかっています w。おゆ子さんからは真摯なお返しをいただきましたが)、ヒール役のキャラ以外全員明るく再生していくストーリーは、心理描写がしっかりしているだけに、とてもすがすがしいですね。

 吹部が本当に脇役程度にしか出てこなかったんで、こちらの本編には入れられませんでしたけれど、ポップスバンドのネタのウェイトが結構大きいんで、軽音楽部ファンの方はそういう方向でも楽しめるかも知れません。


 *2024年4月10日現在、リンク切れ。ユーザーも出てこないので、退会した?




 という感じで、幕間エッセイもたまり次第入れていこうと思います。以後よろしく。

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カクヨム吹奏楽小説読歩記(よみあるき) 湾多珠巳 @wonder_tamami

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