鍋の縁(ふち)と人の縁(えん)

 なんであれ、なにかが作られていく筋道に接するのはわくわくする。まして、プロ作家の手になる文章で語られるとあっては。

 第一話は、オッサンが振るう中華鍋を、当人の背中越しに眺めるような感覚で読んだ。角度上、鍋の底はなかなか見えない。ただ鍋の縁が見え隠れする。

 ガコッガコッとおたまが鍋とぶつかりあう音まで聞こえてきそうだ。鍋の縁は、作る人間と食べる人間の境目でもあり継目であると思った。

 第二話は、ギャルの心理を通じて人の縁に思いを馳せる。オッサンは彼女の頭を優しく冷やした。まるで慌てて食べたあと、火傷しかけた口の中に流し込まれた水のように。

 人生、味わいたくもない体験を味わわされることはままある。そんなときは、まず誰かの手になる心尽くしな料理を食べてから水を一口飲んで落ち着きたい。

 ……どうでも良いが腹が減った。

 必読本作。

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