オッサンは、ギャルに飯を作ってやる。
イコ
ギャルが座っていた
「なぁ、腹減ってないか?」
「えっ?」
寒空の下で、明らかに見た目がギャルですと言わんばりの金髪に巻き髪ヘアーが、街灯の下に座っていた。
最初はどこかの店で働いている子かと思ったが、制服が近所にある青葉高校の物であることに気づいたから声をかけた。
「怪しい者じゃねぇぞ。ほら、これが名刺だ」
俺は警戒してるギャルに中華屋の店長として身分を証明するために、営業に渡すように作った名刺を渡して身分を明らかにする。
「宮崎友人?(みやざきゆうじん?)」
「ミヤザキユウトって読むんだ。中華屋の店長をしている。店の住所はそこに書いてある場所だ。今は仕事帰りでな。腹が減っているなら、残り物の飯があるから一緒に食べないか? 先に言っておくがパパ活とかはしないからな!」
少し早口で告げたのは、若い子に話しかけるのに慣れていないからだ。
黙ったままいたギャルのお腹が(ぐー)となった。
「家に来るのが嫌なら、チャーハンだけでも持って行くといい。まだ少しは温かいはずだ」
「どうして?」
「うん?」
「どうして、優しくしてくれるの? 私が可愛いから?」
余程、自分に自信があるようだ。
顔は確かに可愛い、だが、そこまで女に飢えてはいない。
これでも一年前までは彼女もいた。
別れてしまったが、今すぐ女を求めるほど性欲が強い方でもない。
「ハァー、君が可愛いかなんてどうでもいい。寒空に一人でいて、しかも近所にある青葉高校の制服だったから声をかけただけだ。ほら、警戒しているなら、袋だけ置いていくから、帰って食べればいい」
俺は面倒なことになるのが嫌で、彼女の前にチャーハンのタッパーが入った袋を置いてその場を離れようとする。
「待って」
「なんだ?」
「いいよ。いく」
「えっ?」
「ユウジンさんの家で食べるよ」
いきなりの名前呼びだが、今の子は距離感が近いのかもな。
「なら、すぐそこだ。それと俺はユウトだ」
「はいはい」
袋を持ち上げて立ち上がったギャルを連れて、俺は自宅へと入った。
昔の流れで、マンションに一人で住んでいる。
「うわ〜、広いね」
「まぁな。ほら、チャーハンを寄越せ。温め直すから」
「うん」
タッパーが入った袋を渡されて、他にも食べ物も冷蔵庫から取り出して中華鍋とフライパンに火を入れる。
火力が強いコンロが欲しかったので、専用のガスコンロを設置した。
中華は火力が命だからな。
さっとチャーハンをフライパンで温め直して、野菜炒めを隣の中華鍋で温める。
「本当にプロなんだね。手つきが早い」
「名刺見せただろ」
「うん。だけど、こんなの見たって、偽物渡す人もいると思うよ」
「あ〜、そこまで考えてなかった」
意外に彼女は色々な経験をしているのかもな。
俺は中華スープの素で、簡単な卵スープを作って、三品をテーブルに並べる。
「食べていいの?」
「ああ」
「いただきます!」
目をキラキラとさせて、深夜のチャーハンに口をつける。
我ながら、温め直したチャーハンは美味い。
それに野菜炒めも時間が経っているせいで、油が飛んで、少しあっさりとした味わいになっていた。
「ウマッ! マジで美味い! 何これ、中華ってこんなに美味しかった?」
「あまり中華は食べないか?」
「うん。パンケーキとか? サイゼは行くから、パスタか、ポテトかな?」
今どきの回答に悲しくなる。
昔は、町中華なんてどこにでもあったのに、今ではあまり見かけない。
俺が、働いているところもオヤッサンが、定年で止めるということで、後継を探していたところを使わせてもらっている。
後継支援金とかなんやらをもらいながら、なんとか経営をしている。
元々は、ホテルの中華店で働いていて、副料理長にまで上りつけた。
給与も良かった。
だが、その頃に比べれば、町中華の店長なんて半分以下の給料だ。
彼女が逃げ出したくなるのも理解できる。
「ハァー、卵スープ、ウッマ!」
「良かったな」
「……ふーん、オジサンってそんな顔で笑うんだね」
「えっ? 俺、笑ってたか?」
「うん。私のこと見て嬉しそうに笑ってたよ。美味しいって言われて嬉しい?」
「それはそうだろ? 自分で作った物を美味しいって食ってもらうために、俺は料理人になったんだからな」
俺は今でこそしがない町中華の店長をしているが、昔は、三つ星を取るようなホテルの中華店で働いていた。
連日の徹夜で、仕込みや腕を上げるための無理が祟って倒れて入院した。
脳梗塞だそうだ。体が痙攣して、状態があまりにも悪い。
中華店から解雇を告げられた。
戦力外通告だ。
幸い、大手だったこともあり退職金やら、失業手当やらはそこそこもらえて、十年も働いて、金も使うことがなかったから貯金もある。
それも彼女との結婚資金や、家を買うための金だった。
フラれて全てがパー。
このマンションも彼女と同棲するために購入したけど、今では一人で住んでいる。
病気が重く、人気の無い町中華でひっそりと生活する。
忙しい店で働くことはもうできない。
重めの診断をされたおかげで、家のローンは全てチャラになった。
おかげで、苦労することなく。
家と貯金と、退職金まで手に入れて、彼女だけを失った。
「良い夢だね。ご馳走様。私帰るね」
「ああ、気をつけてな」
あっさりと見送ると、ギャルは驚いた顔を見せる。
「うん? どうかしたのか?」
「本当に……、何もしないんだね」
「ハァー? まだ子供だろ。手なんか出すかよ」
「普通は出すと思うよ。私って結構可愛いし、胸だって大きいから」
「はいはい。子供は帰って寝ろよ」
「む〜、子供じゃないし!」
膨れている顔を見せている時点で子供だと思うが、まぁ俺にはどうでもいい。
腹を満たして満足したんなら、それで俺の自己満足も満たされる。
「本当に変わっているね。ユウジンさん」
「ユウトだ」
「またね。ユウジンさん。お腹が空いたら、くるよ」
「ああ、そんな機会があればな」
俺はそう言ってギャルを見送った。
名前も、スマホの連絡先も聞かないで、別れたので、これで最後だろうと思って。
「来たよ。またご飯食べさせて」
そう言ってギャルが深夜にやってきて、俺は飯を作る。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
ギャルをテーマにこんな話好きだなぁ〜と思って書いてみました。
カクヨムコンテスト9に参加投稿していますので、同じように好きだなぁ〜と思って頂けたら、☆レビューいただけるとありがたいです!
応援よろしくお願いします(๑>◡<๑)
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