第20話 決して、諦めない想い

 パラサイトオーガの集団に囲まれ、絶体絶命に陥る二人。その個体数は黒焦げの五体に加え、近くから駆け寄ってきた残りの半分。合わせて十体もの腐敗した肉体である。いくらあいが手練れとはいえ、全ての群れを相手にするのは厳しい状況。しかし、それでも彼女は自らの命を賭け、戦う姿勢を崩さないでいた……。



「グゴォォォー!」


「――さあ来なさい、化け物ども‼ たとえこの身が滅びようとも、りんさまだけは必ず守ってみせる!」

あいさん……」


りんさま、私の傍から決して離れないでくださいね!」

「う、うん」


 鬼気迫る周囲の異様な様子。こうした光景に、りんは双方の掌を絡めながら、祈るように動向を見守る。そんな中でも、冷静に立ち向かうあいの姿。軽く妖刀を握りしめると、パラサイトオーガの出方を窺った……。


「まさか、こちらの鬼生体がここまでの脅威だったとは……」

「……脅威? って、そんなにも違うものなの?」


「違うも何も。私が知っている鬼生体は、最初に魅せた剣技で跡形もなく消えていました。ですが、この惑星に巣くう化け物というのは、滅するどころか腕しか切り落とせない状況です」

「もしかして、さっき言っていた瘴気が影響していると?」


 りんあいに問いかける。すると、彼女は少し間を置きながら答えた。それは何かしらの影響で、鬼生体が変異しているのではないか。つまり、この個体たちは負の念を糧として生きる存在。要するに、以前とは比べ物にならない、肉体強化された凶暴な化物といえるだろう。


「そうとしか考えられませんね。けれど、時間をかければ倒すことも可能でしょう」

「ほんとですか?」


「ええ、――といいたいところですが……」

あいさん?」


 不安な表情で尋ねるりんに、あいは表情を曇らせながら頷く。そんな言葉尻を濁した様子から察するに、どうやら事態は思ったよりも深刻らしい。


「おそらく解放できる異能の力は、もってあと数回。先ほども言ったように、戦いが長引けばいずれ念の力も枯渇してしまいます。であるならば、奴らを倒すにはそれ以上の圧倒する力が必要。とはいえ、私が扱えるのは、この二つの剣技。これ以上は、妖刀に心を支配され、廃人と化すでしょう」

「二つ……の剣技?」


「そうです。未熟な私に出来るのは、先ほど魅せた水と雷の剣技のみ」

「のみ? ……ということは?」


 りんあいの言葉に首を傾げ、何かに気付いたように尋ねる。つまりは、他にまだ似たような剣技があるのではないかと……。そんな中、少しずつ詰め寄るパラサイトオーガの群れ。これに対抗するべく、二人は互いの背中を重ね合わせ、前後で警戒しながら身構える。だが、この状況下で、どう立ち回ればいいのか。そう思い巡らせ考えていた矢先のこと――。


「「「「「グゥゴォォウッ――‼」」」」」


 周囲の空気が震え出すほどの咆哮を上げるパラサイトオーガたち。どうやら、この雄叫びを皮切りに、一斉に襲い掛かるようだ。ところが、合図を待たずして、群れの中から二体の個体が飛び出してきた。 


「「――ゴォォッ‼」」


 ――その刹那、息を吐きながら大きな声を張り上げるあい。 


「疾速、百歩――‼」 


 あいをめがけて襲いかかった二体のパラサイトオーガ。しかし、その攻撃は、くうを切り裂いてしまう結果となる。何故なら、彼女は目にもとまらぬ速さで消え去り、化物の背後から刀を振り下ろす瞬間だった。 これにはりんも思わず驚きを隠せず声を上げる。


「えっ、何が起きたの?」


  おそらく今の技は、最初に魅せた術の類に違いない。まさに神速と呼ぶに相応しい洗練された動き。従って、りんの目で捉えることができたのは、蜃気楼のような残像の影であった。


 こうして妖刀を手にしたあいは、次々と襲い掛かるパラサイトオーガに斬撃を浴びせていく。それは僅かなダメージであるも、彼女は諦めることなく一心不乱に剣技を繰り出していった…………。

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🪻《パラサイト・オーガ》~記憶の欠片を探し求めて……🪻 みゆき @--miyuki--

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