第19話 破滅へと導く妖刀

 あいの見せた技は、鬼切と呼ばれた妖刀による力。ゆえに、あらゆるものを切り裂き、魔獣すらも一瞬で消し去ってしまうほどの代物。それはまさに、邪を祓い魔を滅する剣技。先ほどの光景から分かるとおり、一太刀浴びただけで両腕が消滅するほどの威力であった……。



「すっ……すごい」

「驚かせてしまって、誠に申し訳ありません」


「ううん、大丈夫だよ。――て、感心してる場合じゃなかった。あいさん、今のって何なの?」

「今の技はですね、こいつが魅せた剣技になります」


 手に携えた妖刀を眺めるあいは、鬼切に語りかけるように呟いた。


「こいつ?」

「はい。こいつは普通の刀ではなく、手にする者の心を操り破滅に導く妖刀。ひとたび鞘から引き抜けば、憑代が滅ぶまで血肉を求め彷徨い歩きます。そんな恐ろしい刀です」


「心を操る? って言っても、今のあいさんは普通に思えるけど?」

「それは私が異能の力によって、こいつを屈服させているからでしょう」


 りんあいが手にする妖刀について、不思議そうに尋ねながら首を傾げてみせる。すると彼女は、意味深な言葉を口にした。


「異能の力?」

「ええ。先ほども申したように、人が誰しも潜在的に持つ秘められた力。一つの魂に、一つの能力。私に与えられたのは、精神感応と呼ばれた念の能力です」


「なるほど……それがさっき言っていた念の力ってやつね」

「そうです」


 異能とは、心に宿す未知なる力。人によっては、様々な現象を発現させることが出来るという。つまりあいは、その力を制御してパラサイト・オーガを切りつけたということである。


「ということは……さっきみたいなことが何度でも出来るってことだよね?」

「残念ですが、この力には限度があり無限ではありません。人が食事から栄養を得るように、妖刀も私の念を食らい存在しています」


「もしかして、それって……」

「はい、察しの通りです。念の力が尽きてしまえば、さっきのような技は使えません。加えて言うなれば、私の命も危うい状態に陥ります」


 りんあいの話を聞き、思わず息を飲む。何故なら、彼女の念が尽きるということは、すなわち死を意味するからだ。そんな中――、両腕を失いながらも人肉を求めて襲い掛かろうとするパラサイト・オーガ。これに応戦するべく、二人は少し間合いを取り身構える。


「そんな……じゃあ、どうすれば……」

「方法は一つ。私の念が尽きてしまう前に、奴らを倒すしかありません」


 あいは淡々とした口調で答えると、手にする妖刀を地面に突き刺し念を込める――。


「邪を祓い魔を滅する剣技――、疾風迅雷しっぷうじんらい‼」


 最初に魅せた技ではなく、別の奥義を繰り出すあい。その瞬間――、妖刀から溢れ出る無数の電撃。地面から突き上がるように現れた雷の刃は、パラサイト・オーガをめがけて駆け抜けた。これによって、肉体は黒焦げとなり、煙を纏いながら力なく崩れ落ちる。


「もしかして、倒したの?」

「いえ、まだです。黒焦げにはなりましたが、肉体は存在しています。やはり、何かがおかしい……」


「おかしい? それって、どういう意味?」

「今の技は、最初に魅せた奥義の何倍もの威力。本来ならば、肉体は朽ち果て塵と化していても不思議ではありません。それなのに……消滅するどころか、再び立ち上がろうとしています」


 あいの言葉通り、パラサイト・オーガは黒焦げになりながらも、こちらを認識しゆっくりと体を起こす。これには凛も驚きを隠せず、思わず後退りしてしまう。


「どれだけ頑丈なのよ」

「もしかしたら……周囲を漂う瘴気が、鬼生体の力を増幅しているのかもしれないですね」


「瘴気?」

「はい、何も見えませんか?」


 あいりんに尋ねると、周囲を見渡すよう促す。それは空一面に広がる薄っすらとした灰色の雲。このペンタスを覆っているものは、怨念のような瘴気の塊であると伝える。おそらく、パラサイト・オーガはこれを取り込み、力を得ているのではないかと推測をたてる。


「えっ? 僕には何も見えないけど?」

「おかしいですね……念の力ならまだしも、瘴気すら感じ取れていないなんて。一体これはどういうことなのでしょうか? 確かに紫苑しおんさまの能力によって、りんさまの念は覚醒されたはず。転生しようがその力は受け継がれ、この世でも解放することができるというもの。とすれば、考えられることは1つ。何かの呪縛によって、能力が阻害されているのかもしれませんね」


 あいりんの異変について、考えを巡らせながら呟く……。


 ――するとその時である!  突然、パラサイト・オーガが奇声を上げ襲い掛かってきた。どうやら、妖刀から放たれた電撃によって、肉体を損傷し怒り狂っているようだ。その勢いは凄まじく、瞬く間に間合いを詰められ二人は囲まれてしまう…………。

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