私がホラーを書かない理由について

「それで、その子はどうなったの?」

 サイン会へ向かう新幹線の中、妻が私に尋ねる。

「うーん、見込み違いだったかな……」

 私はそう言いながら、生徒の作品を添削するために持ってきていたノートパソコンを閉じた。

「話していたら少しやる気を出したものだから、公募用の長編を書いてもらっていたんだが、長編を見ると実力が解ってしまうというものだ。短編の文章のキレほど面白くなくて、これは……小説を投稿しても最終選考まで残らない本当の理由が解ってしまった気がするよ。本人はいまだに呪いのせいだと思っているようだが」

 妻は困惑した顔で首を振った。

「まあ、ひどい。あなたが必死になって書かせた原稿なのに」

「……とは言ってもなあ、」

 私も困惑顔になって煙草の箱をトントンと叩く。

「これが、できるだけ非現実的なことを書こうとしているせいかもしれないが、素っ頓狂な設定がかえってどこかで見た感じになってしまっていて、君も読んだらつまらないと言うと思うよ。はっきり言えば、映画の『新幹線大爆破』と『新感染』が一緒に来たみたいな話だ。まずは呪いだなんだというおかしな考え方をやめさせるところから始めないといけないのかもな」

 そのとき、隣の車両から叫び声とけたたましい物音が聞こえてきた。

「なんだ、指定席なのに騒々しいな。そろそろ眠いから新幹線の中では静かにしてほしいんだが」

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私がホラーを書かない理由について 白瀬青 @aphorismhal

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