狡猾地獄歌

蒼井 狐

狡猾地獄歌

「……ヤーヤー皆様始まり始まり、不気味な語りの時間が来ました。今日の地獄はナンジャラホイさ、狡猾地獄じゃ狡猾地獄……語りますのはキ狂い女。拍子良く良くうたわせますので、是非是非歩みを御止めになって……あははと笑ってそりゃモウ笑って、腹を捩らせ身悶えしたらば、もしくは震えて身悶えしたらば、女に銭投げ浴びせてくだされ……。キ狂い女の語りじゃ語りじゃ……」


「……今日もつまらぬ言葉の羅列、醜い姿もさらけは出せぬ。世の中大層生きづらくって、化けの皮をも剥がされて。厭世に身一つ渡世を探し、何をするにも非難の嵐、これじゃスカアトも履けやしないワ。尊敬丁寧謙譲語、年代性別気にするなかれ。ヨッテラッシャイミテラッシャイ……。乱れに乱れた言葉のお歌も、違う違うと否定をされるは、お門違いも甚だしいワ。響き良ければそれで良し、唾棄はしないで下さいマシ……。皆皆様方お口を揃えて、キ狂い女と嫌悪をされます、そうも所存も狂いに違わず……憂き目に一人も窺い知らず、涙を拭き取りいいのよいいの……猫も杓子もはけ口須要で、頂くお言葉心へ転がり、ポッカリ見事に収まりましたら、カラカラコロロン……カラコロロン……眠りを邪魔する音色を奏でる、骸骨叩くと鳴る音のように。睡眠できずの寝付けぬ地獄ヨ……カラカラコロロン……カラコロロン……カラカラコロロン……カラコロロン……。ある日に見ました悲惨な光景、腹から臓物数本垂らして、死んでおります奇ッ怪ネコチャン、子供に嬲られ殺されたのだワ、純粋無垢だよその子供達は、秤にかけると大人うしは不純です……カラカラコロロン……カラコロロン……」


「……アラアラ皆様……お帰りなさんナ、お帰りなさんナ……」


「……カラカラコロロン……カラコロロン……秤にかけると大人は不純です、それもそのはず私の父母、煙管焼きせるやきして心中しました……心中しました故ならこうです。尫弱家庭で望まぬ身籠り、男を願って産んだはいいもの、産んだ子供は女であります、父母育児は放棄でマグワイ、念願叶って男を産みます。だけども生活切り詰め切り詰め……私が十九で弟十六、お金がなくなり父母心中、苦しみもがいてナントカ生きたが、私が二十で弟十七、殴られ蹴られて犯され三昧、私の精神壊されまして、人を信用できなくなります……カラカラコロロン……カラコロロン……」


「……あははあははのほらソレあはは……皆皆笑えやそらそら笑え。身の毛もヨダツよ狡猾地獄、人の怖さは底まで知れぬよ、恐ろしマボロシお見知り置きを……」


「……カラカラコロロン……カラコロロン……人を信用できなくなります、寝付けぬ地獄のお次に来たのは、俗世が怖くてタマラン地獄ヨ、どこまで行こうか地獄の街道、地獄に隘路は見つかりませぬ、進めば止まれぬ一本道には、時折菓子折り落ちてはいますが、止まれば地獄が長引くだけだワ、一時ひととき幸福味わいましても、幸福地獄の所在はわからぬ。マダマダあります地獄の商店。ヨッテラッシャイミテラッシャイ……。目玉のお品は狡猾地獄、これは最後のトッテオキだヨ、睡眠できずの寝付けぬ地獄と、俗世が怖くてタマラン地獄は、平々凡々余剰の品です。皆も如何か地獄のお品は、不平不満の平等地獄や、恋に燃ゆると盲目地獄、顔面至上の造形地獄に、千万無量の貪婪地獄か……。精神異常もキ狂い野郎も、能無し手無しも足無し名無しも、口無し目無しも鼻無したちも、皆皆地獄に地獄を重ねて、生まれも地獄で育ちも地獄、汝等うぬら健常健康野郎は、生まれ持っての幸福行きかの……カラカラコロロン……カラコロロン……。漫ろに歩いて足踏み違えて、中途半端の精神地獄じゃ、日頃の暮らしに支障はきたさず、廻りが私を目にして見たらば、平凡人とも変わらぬ正常、ですがですがとヒトタビ堕ちれば、精神異常でキ狂い扱い……癇癪起こして落ち着き払って、癇癪起こして落ち着き払って、興奮沈静興奮沈静、斯様に気分が昇って堕ち込み、堕ちた際にはどん底這って、昇った際には殿上人じゃ。這般の事情は、複雑多様で千万無量……マボロシ見るものマボロシ聞くもの……突発行動奇ッ怪狂やら、感情イラズの伽藍堂……人間依存に腕切り死なずや、要らぬ忠告言いたい病、自分を見せたい欲求症やら、ケチつけたがりの講釈野郎。…………? もしやもしやと思いに立って、問うてみますは自分の頭。私をキ狂い女と蔑む、民衆群衆大衆たちも、大小強弱度合いは違えど、皆皆心に地獄をお持ちで、ナントカ狂とかナントカ病とか、ナントカ症やらナントカ野郎……私の語りをお聴きの皆皆……過去に思いを返してみたらば、障のある節幾つかポツポツ……御有りでしょうヨ……御有りでしょうネェーッ……。さすればザワめく心の中からァー……聞こえてきますはァーカラカラコロコロ……頭がァーザワザワ……体がァーゾワゾワ……。不快不愉快不可解極まる……それが地獄をお持ちの証拠……。過ち恥し心が姦し……カラカラコロロン……カラコロロン……」


「……あははの笑いが止まらぬようで、これじゃもお手上げ地獄よ。過ち恥し心が姦し……少しこれにはチクりとやられた……これから先には狡猾地獄……おっとこれまで……が言っちゃあ話の腰折り……」


「……カラカラコロロン……カラコロロン……過ち恥し心が姦し、お持ちの地獄を指折り数えて、両の指にて収まるならば……狡猾地獄は御一つ如何か……? 狡猾地獄を御存じなければ、御覧に入れます覚悟をなさって……。皆皆存じております通りに、世には優しさ須要であります、優しいお方の魅力に誘われ……然りとて半端な優しさのみでは、魅力にならずでそこいら止まり……。皆皆存じております通りに、世には狡さも須要であります、前者か後者か比べてみたらば……一目瞭然……後者が世の中握っております……。弱者も行い正しくすれば、個と個が集まり、お上を落として厭世を変えます……。私の語りに合いの手挟むは私の弟……狡猾地獄は彼の持ち物、私を使って鬱憤晴らして、私の人生狂いに狂わせ、キ狂い女と称して語らせ、お金も巻き上げ狡猾地獄……狡猾野郎で狡猾狂の、狡猾病なら狡猾症です……どうか助けて下さいマシ……」


「……地獄の沙汰も金次第……ヘヘッ……そんなところでございやす……」

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狡猾地獄歌 蒼井 狐 @uyu_1110

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