エマージェンシー ~張り詰めた糸の先に~

にわ冬莉

任務遂行

 ヒュン


 乾いた音と共に頬を掠める一本の矢。

 射手の腕の良さを認めずにはいられないその矢道。

「チッ」

 舌打ちを一つ置き去りに体勢を整えると、素早く茂みの中に身を隠す。

 このままでは時間の問題だ。先に射ち込まれた方の負けである。

「諦めが悪いわね!」

 大きく弓を引きほくそ笑むその顔は、勝利を確信したかのようだ。

「まだ、わからねぇだろ!」

 精一杯の虚栄。

 勿論、見透かされているのは百も承知だったが。

「観念なさい!」


 ヒュン


 足元に、矢が刺さる。


「負けられるかよっ!」

 茂みから飛び出し、刹那の希望。

 ギリ、と弓を弾き、放つ。

 トス、という手応え。

「よしっ!」

 拳を握り締め、ゆっくりと近付く。

 体に矢が刺さった状態で、浅く呼吸する射手。

「まさか……私が負けるなんて」

 そう、項垂れる。




両想いの場合、キューピットの打ち合いに意味などない。

どちらが先に当てたとて、結果は同じなのだから。




「好き!」

「俺も!」


 ……どうぞご勝手に、なのである。

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エマージェンシー ~張り詰めた糸の先に~ にわ冬莉 @niwa-touri

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