エマージェンシー ~張り詰めた糸の先に~
にわ冬莉
任務遂行
ヒュン
乾いた音と共に頬を掠める一本の矢。
射手の腕の良さを認めずにはいられないその矢道。
「チッ」
舌打ちを一つ置き去りに体勢を整えると、素早く茂みの中に身を隠す。
このままでは時間の問題だ。先に射ち込まれた方の負けである。
「諦めが悪いわね!」
大きく弓を引きほくそ笑むその顔は、勝利を確信したかのようだ。
「まだ、わからねぇだろ!」
精一杯の虚栄。
勿論、見透かされているのは百も承知だったが。
「観念なさい!」
ヒュン
足元に、矢が刺さる。
「負けられるかよっ!」
茂みから飛び出し、刹那の希望。
ギリ、と弓を弾き、放つ。
トス、という手応え。
「よしっ!」
拳を握り締め、ゆっくりと近付く。
体に矢が刺さった状態で、浅く呼吸する射手。
「まさか……私が負けるなんて」
そう、項垂れる。
両想いの場合、キューピットの打ち合いに意味などない。
どちらが先に当てたとて、結果は同じなのだから。
「好き!」
「俺も!」
……どうぞご勝手に、なのである。
エマージェンシー ~張り詰めた糸の先に~ にわ冬莉 @niwa-touri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます